隈研吾が設計した“九谷焼の100年施設” 「北陸の伝統技術を未来のヒントに」【PR】

(2019/7/4 23:30)

【3者対談】隈研吾×江尻憲泰×中山賢一

 5月。九谷焼の街、石川県小松市に誕生した「九谷セラミック・ラボラトリー(セラボ・クタニ)」。九谷焼の全工程を学べる体験型施設で、建物を設計したのは世界的な建築家、隈研吾氏。施設のあちこちには地元企業、小松マテーレの環境資材が活用されている。隈氏、小松マテーレの中山賢一会長、プロジェクトに協力した構造家の江尻憲泰氏の三者に、施設にかけた思いと、日本の建築やモノづくりの未来について語ってもらった。

隈研吾氏

ー北陸のモノづくりの良さは何だと思いますか。

隈研吾氏(以下、隈)
 北陸のモノづくりの伝統はとても深く、クオリティーも世界に通用するレベル。また、中山(賢一)会長と知り合ってモノづくりのプロセスを見せて頂くと、「伝統にしっかりとリスペクトしながらも、未来を見据え、環境にも配慮している」という先進性を感じた。今回設計した「セラボ・クタニ」も、伝統と先進性の両方を兼ね備えたものにしたいと考えた。
江尻憲泰氏(以下、江尻)
 北陸には非常に多くの文化財が残っている一方で、炭素繊維のような新しいものを使っていこうという取り組みも多い。古いものだけでなく、新しいものも受け入れている姿勢はユニークだと感じる。それは相反するものではなく、北陸の人の感性の中にあるのだと思う。

ー隈先生は常々「時代を読む力」を重視され、そのキーワードとして「脱工業化」を挙げています。今回も炭素繊維などの環境に優しい素材を使われていますが、日本全体を見たとき、「脱工業化」は進んでいると言えるのでしょうか。

 日本には工業化社会の前にしっかりとしたモノづくりの伝統がある。例えば、江戸時代にも優れた技術が沢山あって、これは世界に誇れる。しかし、その技術が未来のヒントになるということに気付いている日本人は少ない。

しかし中山会長はそういったことを意識的にビジネスに繋げ、社会に貢献しようとされている。これからの日本企業のモデルになるのではないかなと思う。

小松マテーレ 中山賢一会長

ー経営者でもそういう感覚を持たれている方は少ないですか。

 すごく少ない。特に北陸は工業化社会が到来する前も高い技術力のモノづくりが行われていた。工業化社会前の技術を未来に繋げる良いポジションにあるということを最大限に利用してほしい。
中山賢一会長(以下、中山)
 環境というものが、ビジネスを進めるうえで最大のエンジンであることに気付いていない企業が多いと思う。

だが、東京オリンピック・パラリンピックを契機に変わっていくと思う。オリンピックに向けて観光資源の開発に力を入れているところが多い。日本の新たなビジネスの柱を考えると環境しかない。当社の「カボコーマ(熱可塑性炭素繊維複合材)」や「グリーンビズ(緑化基盤材)」はそのような時代において強みになると思う。隈先生とお付き合いする前は、「建築」と「繊維」や「ファッション」の技術がこれほどまで結び付けられるとは思わなかった。

ーそういえば、隈先生はファッションブランドでは「ZARA」がお好きと聞きました。

 ZARAの面白さは、若いデザイナーの意見を吸い上げるところにある。今までの建築家先生の凝り固まった発想を押し付けていては、新しいものは生まれない。企業にも新しいものを吸い上げる柔軟性やネットワークが必要だと思う。
江尻
 大企業には優秀な人材も多いが、安全策をとりがち。以前手掛けた小松マテーレのファブリック・ラボラトリー「ファーボ」では世界で初めて炭素繊維を耐震補強材に使用したが、実現できたのは「カボコーマを使うんだ」という中山会長の強い推進力があったから。新しいことに挑戦する、リーダー人材を育てる環境が必要だと感じる。

ー中山会長は長い間経営トップされていますが、経営手法で変わらないところ、変化したターニングポイントなどはありますか。

中山
 若い時は目先の利益を重視する傾向にあった。隈先生などにお会し、長期的な視点で考えられるようになった。孫やひ孫の世代を考えると、経営者として地球環境に即したことができているのかと考える。隈先生や江尻先生から誉められたり、助言を頂けると、実現できる喜びや挑戦心が芽生える。

江尻憲泰氏

ー隈先生はどのくらい先の未来を見据えて仕事されているのですか。

 100年という単位で考えてきた。21世紀に入って20年近くたつが、20世紀でいうと、1920年くらいからモダニズムが変わり始めている。建築自体は100年、200年残るものだ。
江尻
 重要文化財を担当しているので、200年、300年経ってもメンテナンスをしてもらいながら使ってもらえるものにしたいと思い仕事している。もともと日本は、奈良・法隆寺のように、長い期間建物を存続させてきたので、スクラップアンドビルドはこだわらず、むしろ長く使う視点があったと思う。

これまでは文化財そのものを残そうという意識だったが、最近は、それを「活用」しようと意識が高くなっている。隈先生とご一緒している「富岡倉庫」(群馬県富岡市)の耐震補強工事などは、100年近く前のものを生かし、また100年使ってもらうという取り組み。新しい時代に入っていると感じる。

ー隈先生の中で、建物を含めて先進的と感じる世界の都市はどこですか。

 米国のポートランド。米国人が住みたい街として、こぞって名を上げる。観光名所があるわけでは無いが、環境への配慮が市民全体にある。米国の都市なのに「脱クルマ社会」で、医療や福祉も大事にしている。

市民のリテラシーという点では、オリンピックのような大きなイベントの後はやはり変化が生まれる。1964年のオリンピックを契機に高速道路や新幹線が整備されたり、日本は世界に先駆けていろいろな事に取り組んだ。今回、新国立競技場に多くの木を用いているが、巨大施設では世界でも初めてのこと。建築は設計から完成までおよそ3~4年を要するが、私自身ももっと長い視野で社会や街全体がどう変わっていくかという視点で仕事をしたい。

  • セラボ・クタニ内の施設

  • セラボ・クタニ内の施設

  • 小松マテーレの「グリーンビズ」

(2019/7/4 23:30)

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