(2019/10/29 05:00)
10月14日は「鉄道の日」。鉄道は輸送力や定時性に優れた公共交通機関として、現代社会に不可欠な交通インフラを担っている。高い安全性・信頼性を確保しながら、利便性向上を図るため、車両、軌道、信号・管制、架線・電力設備、予約・発券など多くの要素を統合した巨大なシステム技術として進化を続けている。地球温暖化問題が深刻化し、低炭素社会への移行が急がれるいま、運行に伴う二酸化炭素(CO2)排出量が少ないという鉄道技術には大きな期待が寄せられている。
「鉄道の日」は1872年(明治5)10月14日、新橋・横浜間に日本初の鉄道が開通したことにちなみ、1994年に定められた。この日を中心に、JR各社、私鉄など鉄道関係者が一堂に会して鉄道の発展を祝う「鉄道の日」祝賀会の開催や、全国各地で多彩な行事を実施し、鉄道への関心を高めることを目的としている。
15日に開かれる「鉄道の日」祝賀会では、鉄道各社と関係団体、国土交通省で構成される選考委員会によって選ばれた「日本鉄道賞」の表彰も行われる。今年は明知鉄道の「全国の鉄道をつなぐ『鉄カード』」の取り組みが日本鉄道大賞に選ばれたほか、特別賞3件が表彰される。
モーダルシフトでCO2削減
鉄道は輸送力に優れ、また、日本の場合は定時性への信頼性が高い。それらに加えて、運行の際のエネルギー消費量、CO2排出量が少ないことが大きな特徴だ。低炭素社会の構築が喫緊の課題となっている中、鉄道という交通インフラへの期待が膨らんでいる。
2017年度の日本のCO2総排出量11億9000万トンのうち運輸部門は17.9%の2億1300万トンだった。旅客輸送量(1人・1キロメートル)当たりのCO2排出量は自家用乗用車137グラム、航空96グラム、バス56グラム、鉄道19グラム。貨物輸送量(1トン・1キロメートル)当たりのCO2排出量は自家用貨物車1177グラム、営業用貨物車232グラム、船舶38グラム、鉄道20グラム。旅客、貨物とも鉄道の効率がもっとも優れ、CO2削減には鉄道の利用が効果を発揮する。
トラックなどの自動車で行われている貨物輸送を、CO2排出の少ない鉄道や船舶の利用に転換するモーダルシフトの推進は環境負荷低減効果の大きい取り組みだ。
N700S 非常時にバッテリー走行も
日本の鉄道技術の頂点にあるのが新幹線だ。高速運転専用の軌道を用い、高度な管制・制御のもとで運行される。車両や施設の保守管理や要員教育も含めた巨大なシステム技術である。新幹線の特徴は速さだけではない。安全性・信頼性の高さこそが真価だ。
JR東海が20年7月の営業運転開始を予定している次世代新幹線車両「N700S」は高い走行性能を有しているが、現行のN700A型よりも消費電力を7%減らし、先頭形状の改良でトンネル突入時の騒音もさらに低減させている。また、安全・信頼性向上として、自動列車制御装置(ATC)とブレーキシステムを改良、地震時のブレーキ距離をN700A型よりも5%短縮させている。
高速鉄道としては初めて、バッテリー自走システムを搭載し、地震などの自然災害時に長時間停電した際も乗客が避難しやすい場所まで自力走行を可能にしている。防犯カメラや緊急時の通話装置の増設などもなされる。
新たな公共交通LRTに注目
地方の中心都市での交通インフラとして、次世代型路面電車といえる軽量軌道交通(LRT)が注目されている。LRTはバスや従来の路面電車よりも輸送力が高く、地下鉄やモノレールよりも建設費用が抑えられる。高齢化社会での公共交通のあり方、環境対策などからも検討される。
宇都宮市と東側に隣接する芳賀町は、22年3月の開業を目指し、工事を進めている。既存の路面電車のリニューアルや延伸ではなく、全くの新設によるLRT導入は国内で最初のケースだ。
営業主体は宇都宮ライトレール。3車体連接・全長30メートル・定員155人の低床式車両がJR宇都宮駅東口と本田技研北門間約14.6キロメートルを44分で結ぶ。事業はJR宇都宮駅から西側の市街地に延伸する構想が立てられている。
(2019/10/29 05:00)