(2020/6/5 05:00)
コウノトリは洋の東西を問わず「幸せを運ぶ鳥」として尊ばれてきた。近親種のシュバシコウが国鳥のドイツでは、巣作りした家は子どもを授かるという伝説がある。日本では安産や良縁に御利益があるとされる。
翼を広げると2メートルになる堂々たる体躯(く)は湿地の王者にふさわしい。乱獲と生息環境の悪化で1956年に国の特別天然記念物に指定されたが71年に野生絶滅。現在は各地で人工繁殖や野生復帰が行われている。
市名がコウノトリに由来する埼玉県鴻巣市は飼育施設を新設し、来年秋から将来の放鳥に向けて人工繁殖を始める。また栃木や群馬など4県にまたがる渡良瀬遊水地では、野外繁殖によるヒナの誕生が間近い。関東平野の大空を悠然と舞う日が待ち遠しい。
渡良瀬遊水地では保護団体が外来植物を駆除し、餌となる生物が豊富な葦(あし)原を守り続けてきた。足尾銅山から流出した鉱毒を無害化する遊水地が繁殖地になれば、未来へのかけがえのない遺産になろう。
5日は『環境の日』。世界を覆うコロナ禍は、自然破壊によりパンドラの箱を開けてしまった報いかもしれない。足尾鉱毒事件に生涯をささげた田中正造は、川や山を荒らさぬ「真の文明」を説いた。その尊さと成しがたさを思う。
(2020/6/5 05:00)