バイオマス粉をストローに 海洋プラスチック問題解決へ【地球環境特集より】

(2019/7/31 05:00)

【執筆者】

三重大学 大学院 生物資源学研究科 教授 野中 寛

 海洋プラスチックゴミ問題やそのマイクロプラスチック化の解決には、何より各国で回収を徹底することが重要であろう。しかし海洋に流れ着くケースがある限り、生態系をかく乱しうる人工物は減らすべきであり同時に低炭素化にも対応するためには「生分解性に富み、天然物を原料とするプラスチック代替品」の開発が急がれる。

  • バイオマスストロー(左からコーヒーかす、木粉<ウッドストロー>、竹粉)

バイオマス資源活用

 木や草、木材から生産される紙パルプのようなバイオマス資源そのものであれば、流木、海藻などと同様に海洋中いずれは微生物の働きで分解され、大きな環境問題を引き起こすことなく二酸化炭素と水へと変換されることが期待される。ここで問題となるのは木や紙には可塑性がなく、プラスチックのように成形できないことである。木材は切削加工し接着する材料で、紙も切る・折る・貼る・巻くで造形する素材のため成形は難しい。

 筆者は木や紙の自由な成形を求めて、セメントやセラミック押出成形品に利用される粉末状のセルロース系増粘剤に注目した。粉末あるいは繊維化したバイオマスと水とを適当な比率で混練すると、流動性と保形性を両立した、いわば「バイオマス粘土」が得られる。この素材を常温で押出成形や型押し成形し、乾燥を経て、さまざまな形状を試作している(オールバイオマス成形品)。一般にプラスチックは加熱成形し冷却して成形品を得るのに対し、本技術では常温で成形し乾燥により成形品を得る点で発想が異なる。天然素材を原料とするセラミックスや食品製造に近づけたプロセスとも言える。バイオマスや増粘剤の種類、その量比、含水率、成形時のプレス圧力、可塑剤の添加などで幅広く物性を制御できるため、求める質感、強度、成形性、柔軟性、リサイクル性、崩壊性などを満たす成形品を創製できる可能性がある。

  • オールバイオマス成形品の製造プロセス

 この技術を用いて木粉を外径6ミリメートル、肉厚0・5ミリメートルの中空状に押出成形をした木製ストロー「ウッドストロー」は昨年、ウッドデザイン賞2018を受賞した。木粉、紙粉、竹粉、コーヒーかすなどバイオマス粉であれば何でも製作でき、材ではなく粉末でよいため、廃棄物系バイオマスにも適用しやすい。水に漬けると吸水し、こねると粘土状に戻すことができる点で高度なリサイクル性があり、水中でバイオマス粉へと崩壊するため優れた海洋分解性を有する。一方、実用に耐えうる耐水性を天然系素材のみで付与する研究も進めている。

ストロー注目、「生分解性」商品化進む

 プラスチックストロー廃止の動きに伴い、さまざまな代替ストローが出現している。プラスチック全製品あるいは海洋プラスチックゴミに占めるストローの割合は必ずしも大きくないが、注目度が高いゆえ、各社商品化に力を入れている。

 生分解性プラスチックを用いたストローとして、ポリ乳酸(PLA)ストローはすでに市場に出回っている。三菱ケミカルが「BioPBS」ストローを、カネカはカネカ生分解性ポリマー「PHBH」を用いたストロー生産を発表している。PHBHは海水中で生分解するとの認証「OK Biodegradable MARINE」(30度Cの海水中で生分解度が6カ月以内に90%以上)を2017年に取得したポリマーだ。

 天然物をそのまま用いたストローとしては紙ストローが容易に入手できるようになり、機能性を高めたものも発表されている。通販などでは中空な茎を活用した竹ストローや麦わらストローも手に入る。木製のストローとしてはクレコ・ラボやアキュラホームのストローを見つけることができる。これらは木材を薄くスライスしたものを斜めに巻き上げて加工しており、紙ストロー同様の製法である。筆者のウッドストローはシート状材料を必要とせず、粉末や繊維からの成形が可能である点が大きく異なる。押出成形を基本として3Dプリント、射出成形、プレス成形、真空成形、さらにはブロー成形まで視野に入れており、既存の木製品、紙製品、パルプモールド、パルプ射出成形品に加え、三次元バイオマス成形品のバリエーション拡大につながればと考えている。

(2019/7/31 05:00)

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