社説/20年版通商白書 コロナ打撃分析、深掘り求める

(2020/7/9 05:00)

政府の2020年版通商白書は、新型コロナウイルスの大流行が引き起こした事態を「大恐慌以来最悪の経済危機」として多面的な分析を試みた。

事業停止やサプライチェーン寸断による「供給リスク」と、対面サービスや耐久消費財の購買が蒸発する「需要リスク」の双方が一気に顕在化。途上国や新興国でも経済が停滞する前例のない状況を「異次元の経済危機」と評している。

世界の金融市場も動揺し、原油価格も下落した。ただ直近では各国が経済活動再開に動き始め、大規模な経済対策を実施したことから、金融市場の緊張は緩和に向かったとしている。

一方、白書はグローバリゼーションについて「アンバンドリング(分離)」の視点から国際分業が進んできた状況を分析。移動・輸送コストの低下や、情報通信技術(ICT)革命による技術・データの移動コスト低下により生産プロセスが分離され、グローバル・サプライチェーンが発展したとしている。

こうした国際間分業は今後も続き、コロナショックによるオンライン通信の発達で、より分離が加速する可能性があるとの見方を示した。こうした世界経済の構造変革は「コロナがあっても変わらないというのが今回の白書のメッセージ」(経済産業省通商政策局)だという。

メガトレンドの分析としては理解できる。しかし短期的には世界の通商は大きな圧迫を受けており、人の交流は途絶に近い状態だ。いまだ感染拡大の収束が見えない中での分析は困難だと思うが、通商のシュリンクが長期化すればどんな事態が想像されるか、あるいは回復にむけてどんなシナリオが予想されるかという展望に、もう少し踏み込めなかったろうか。

マスクの供給不足は国民生活に大きな不安を与え、政権に対する評価にまで影響した。欧州連合では域内で国ごとに通行を規制する異常事態も起きた。今後のグローバリゼーションの進展に、なんらかの制約が生まれないか。今回の通商白書の分析をさらに深掘りし、産業界への指針を示してもらいたい。

(2020/7/9 05:00)

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