(2020/8/19 05:00)
新型コロナウイルス対策としてではなく、デジタル社会の利便性を広げ、国民生活を豊かにするために政府が率先して押印廃止を進めてほしい。
文書に印鑑を押す習慣は、歴史的なものとして我々の生活に深く根づいている。押印がない文書は、時には無効あるいは偽物と認識される。
新型コロナによるテレワークの障害のひとつが押印文書の存在だ。勤怠管理や経費精算などの社内手続きをする。請求書や契約書を取引先に届ける。関係省庁に申請書を提出する。そうした必要性から、週に何度か出社を求められるケースは珍しくない。
ところが押印の法的根拠は、実にあいまいだ。IT担当相や政府の規制改革推進会議、経団連などは連名で7月に、署名や押印というビジネス慣行の見直しを求める共同宣言を出した。その前提となる政府の『押印についてのQ&A』には「押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない」「認印が(中略)本当に必要なのかを考えてみることが有意義」とある。届け出ずみの実印でも「文書の真正な成立が推定される」ための方法のひとつに過ぎない。
現代は、本人の意思確認を印鑑証明に頼らざるを得なかった過去とは違う。国税庁は、契約時に注文請け書を電子的に作成し、PDFファイル等で取引先にメールすれば収入印紙は不要という見解を示している。プリントアウトしないのだから押印もない。高価な印紙がなくても契約として有効なのだ。
押印のない文書は簡略なものではなく、電子印鑑等のシステムで代替する必要もない。それがビジネスの常識になれば契約のデジタル化が進む。文書が一方の意思で改ざんされるのを防ぐには、公証人など適当な第三者に電子複写をメールしておくだけでも効果がある。
企業の立場では、まず社内文書の押印全廃に取り組みたい。それ以上に重要なのは古い文書主義に支配された公的機関の届け出を見直すことだ。「公」が押印廃止に動けば「民」の意識も変わる。
(2020/8/19 05:00)
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