(2020/8/26 00:00)
セールスフォース・ドットコム(東京都千代田区、小出伸一社長)は4月27日、製造業向けデジタルトランスフォーメーション(以下DX)オンラインセミナーを開催した。産業界におけるデータ活用の重要性や事例を紹介。
基調講演には東京大学未来ビジョン研究センターの小川紘一氏が登壇。事例講演ではDICの西村晋氏がSFA(営業支援ツール)の活用事例を、さらにセールスフォース・ドットコムの渡邉剛司氏がデモンストレーションを交え同社のSFAを紹介した。
100年に1度の経済革命 データを活かす現場力が価値創造のカギ
東京大学未来ビジョン研究センター 小川紘一氏
いま世界の産業界で起きているデジタル化は100年に1度とも言うべき経済革命だ。これまでほとんどのビジネスは、19世紀末のドイツやアメリカで始まった自然法則の産業化であった。1990年代はデジタル技術が最初に取り込まれた電機産業だけで経済革命が起きたが、2020年代にはこれが全ての産業領域でおきる。自動車産業も例外ではない。
例えば世界の電機産業は、まず自社の研究所で要素技術を開発し、事業部門がこれを商品化して販売するという、フルセット自前主義が当たり前だった。しかしデジタル化が進む1990年代の後半になると、例えばパソコンやインターネット、液晶テレビ、携帯電話、スマートフォンなど、市場から調達するモジュール(部品)を組み合わせて完成品を製造するオープン・アーキテクチャの市場となった。価値形成の場が企業の内部から外部へシフトしてしまったのである。
2010年代になってクラウドが大量に普及すると、今度は価値形成の場がクラウド(サイバー空間)へシフトした。銀行や小売産業がその代表的な事例だが、2020年代はこれが全ての産業で起きる。その特徴は、モノから出るデータをクラウドへ集め、データを繋ぎ合わせて生産性を上げるという全く新しい経済効果の活用だ。
2010年代の金融や小売りにおいて、データを活用した新しいプレーヤーによるゲームチェンジが起きたことは記憶に新しい。今後このゲームチェンジが、製造業へと広がっていく。
2020年代から個人のデータ量の伸びは飽和する。その代わり、産業データ量が急増し、全データ量の大部分を占めるようになる。これを受けてアメリカはもとよりドイツや中国、日本でもサイバー空間で価値を創造する方向へ国家が誘導しはじめているが、2020年からEU、特にドイツが、個人情報だけでなく、産業データの保護と活用に注力を始めた。
製造業でこれを語れば、データの繋がりによって生まれる新しい経済効果として、設備の稼働を最適化して無駄を無くす、調達から販売に至る在庫を「見える化」して無駄を無くすのは勿論だが、製品企画・設計・生産を繋いでトレーサビリティを飛躍的に高め、あるいはビジネスシステムの仮想化により移動を伴わずに経済活動を行うことができるなどが挙げられる。これによって投資以上の経済効果が生まれている事例は枚挙に暇がない。
そこで最も重要なのはデータを利用する現場力だ。なぜなら、データを繋げ、繋いで生まれる価値を判断し、利用するのは現場だからだ。そのためにはデータを標準化することも必要だ。製造業のDXは現場との協業によってはじめて可能になるのである。
2020年代のDXを進める上で最も重要なのは、多種多様なデータから経済効果に繋がるデータを判断する現場力であり、このデータから人工知能が出力する結果を正しく判断する現場力だ。特に製造現場では、データ同士を繋げる仕組みづくりと、集められたデータが生み出す経済効果の判断は現場力がなくてはなし得ない。さらに製造現場以外の、販売やマーケティング、サプライチェーンとのデータ連携の仕組みも、それぞれに現場の力がなければ作り上げることは難しい。この意味で2020年代のDXは、「現場力とITの相互理解、相互協力」なしに成功しない。世界に誇る現場力を持つ我が国製造業にチャンス到来ではないか。
日本企業が気を付けるべきSFA導入時の注意点と活用法
DIC株式会社 コーポレートコミュニケーション部 西村晋氏
当社ではSFAの導入を、2019年7月からさまざまな用途向け樹脂を製造販売するパフォーマンスマテリアル製品本部から始めた。その背景には製品本部のビジネス目標がある。成長余地の少ない国内市場は守りを固め、海外での売上比率を2025年までに60%にすること。その中でも中国・アジアをターゲット市場に定めた。
中国・アジアでのビジネスチャンスは多い。しかし、日本とは比べ物にならないスピード感が必要になる。例えば、新規での取引や値引き要請に対して、上司への根回しなど日本的な習慣では受注を獲得することができない。また、重点地域の顧客はノウハウが少ないためトラブルへの対応も重要であった。
これらを解決するには、仕事の進め方と担当者の役割を見直さなければならなかった。社内文化を根本から変える情報共有手段と、貢献を「見える化」して公正に評価するため、SFAを導入した。
導入するにあたり、導入推進チームはITエンジニアだけではなく業務がわかる営業出身者も含めて発足。順次導入する製品本部のやりたいことが実現できること、全社展開が可能で、情報セキュリティ問題、基幹システムとの連携、将来性などの点からSFAツールを選定した。「部分最適でなく全社最適」を念頭に進めたプロジェクトの中で重要視したのは社内啓発と進捗報告。一般的に日本企業は業務改革が苦手で、納得感がないと動かないため、導入順序を中国→アジア→日本とした。導入する部署は会社からの「押し付け」ではなく立候補制にしている。また経営層に対して年2回の進捗報告を実施。導入後の成果が評価され全社展開に有益にはたらいている。
SFA導入から定着までは通常1年ほどかかると聞いている。弊社では定着化を促すため、初期の段階から使い勝手の部分に関しては徹底的にサポートした。まずは毎日使うことを習慣化してもらう様にサポートした結果、導入した製品本部では「会議のために作ったエクセルの変わりに、リアルタイムの情報が共有されているSFAの画面を見ながら、web会議を行うのが日常化してきた。SFAの中で議題など必要な情報があらかじめ共有されているので本質的な議論に初めから入ることができるようになった」という活用の声が聞けている。
今後、ますますSFAにはデータが溜まっていく。内部のデータはもちろん、外部のデータも活用しAI機能なども織り交ぜ、営業戦略支援や売価提案の最適化、受発注の効率化を推進に活用していきたいと考えている。
日本企業が気を付けるべきSFA導入時の注意点と活用法
セールスフォース・ドットコム エンタープライズ セールスエンジニアリング本部 製造ソリューション リードソリューションエンジニア 渡邉剛司氏
ご周知のとおり、新型コロナウイルスの影響で世界経済は大きな打撃を受けている。製造業でも部品や原材料の手配といったサプライチェーンへの影響やオフィスの閉鎖、需要の減少などの問題に直面しているのではないだろうか。こういった状況下では将来を予測することは困難である。そのため、必要なのは市場や顧客の状況や変化を捉え、対応していくことだ。しかし、企業の中で情報は部門ごとに分断されている。以前からこの問題はあったが、現在のように直接的なコミュニケーションができない場合では情報の共有ができず、変化への対応が遅れ、機会損失を生じさせる要因になる。
当社のSFAでは、取引先の基本情報や過去にコンタクトのある担当者の情報、問い合わせ内容、顧客との打ち合わせなどのコンタクト情報を全社で共有することができる。例えば商談の進捗状況を営業が更新すれば、その変化をマネージャー含め関係者すべてがリアルタイムに把握をすることが出来る。経験の浅い営業であっても、進捗に応じて確認すべき項目がわかるので、漏れなく商談を進めていくことが可能だ。さらに技術部門に対する技術支援の依頼の申請も新たに申請書類を書くことなく、SFA内にて完結できる。技術部門が欲しい情報はすでにSFAに書いてあるからだ。さらに各案件のフォーキャスト情報から受発注の実績情報をすべてSFAに格納することで、経営者は今期の売り上げの最新の着地予想を見たい時に確認できるだけでなく、製品や地域ごとの分析なども容易になる。
渡邉氏の講演・デモンストレーション並びに本ウェビナーの講演は下記のURLにて必要項目を入力いただくと聴講することができる。
https://www.salesforce.com/jp/form/events/webinars/form-rss/2223305
(2020/8/26 00:00)