産業春秋/ハンコ文化

(2020/10/8 05:00)

「すべての行政手続きにハンコが要らなくなるような誤解を生み残念だ」。デジタル化を推進する一環として府省庁の行政手続きは押印を可能な限り不要とする―。河野太郎行政改革担当相の発言に、業界関係者はいら立ちを隠せない。

批判の矛先は報道機関にも向けられる。「ニュースを面白く伝えようと大臣発言を断片的に切り取り、正確さを欠いた」と取材でお叱りを受けた。業界団体は政府とともに報道機関にも抗議したという。

印鑑業界は後継者難と需要減少で廃業が後を絶たない。山梨県は全国一の生産量を誇る。手彫りの技術が100年以上継承されているが、今では40代後半が一番の若手になった。

墨で印面に逆さ文字を字入れし、粗彫りから丹念に仕上げていく。印鑑は縁起物のため運気の知識も要る。印相体や古印体など多様な書体を彫れるまで10年はかかるそうだ。

「ハンコ文化はデジタル社会と共存共栄できるはず」と、彫刻業者などで組織する六郷印章業連合組合(山梨県市川三郷町)の担当者はみる。ただ機械彫りの普及により手彫り印鑑は価格面で押され気味だ。手彫りならではのぬくもりや柔らかさを大切にする社会の価値観まで廃れてほしくない。

(2020/10/8 05:00)

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