(2020/10/13 05:00)
モノづくり日本会議は中小企業基盤整備機構(中小機構)と共催し9月18日、ウェブセミナー「急げ!工場のデジタル化! ウィズコロナ時代を生き抜くために」を開いた。産業界や生活スタイルを一変させた新型コロナウイルスにより、働き方改革も加速した。一方で現地・現物作業を主とする工場業務をどう変革するか。緊急課題とされる工場のデジタル化の具体的な進め方を考え、これを支援する中小機構の取り組みについても紹介した。
【基調講演】急げ!工場のデジタル化!
関ものづくり研究所代表 関伸一氏 アナログ感性のために
私の考えるモノづくりの意味は、まず最初から最後まで一貫したトータルのモノづくり。独りで全部やる職人の世界でこれは非常に楽しい。もう一つは3次元データで貫くこと。設計から組み立て、販売、修理といったライフサイクル全てを3次元データで貫く。そして、不具合の原因は100%設計にあるということ。ヒューマンエラーは起きて当然なので、いかにミスを犯さないか、犯してもすぐにわかるようにするシステムを作る。そのために製品設計と工程設計が重要となる。
本日のテーマである「デジタル化」だが、私はモノづくりの行き着くところはアナログ感性に尽きると考える。そのためのデジタルモノづくりだ。単純、繰り返し、大量、正確、トレーサビリティーといった仕事は、もうデジタルに任せよう。人間は感性、創造、空想とか妄想、やりがいのある面白い仕事をやりたい。そのベースとして、明るく楽しい現場からしか、良い製品、サービスは生まれない、という私のモットーがある。
具体的に考えると、まずコロナ禍がもたらしたものだが、やはり在宅ワーク、テレワークだろう。オンラインのミーティングなど、コミュニケーションの質として全く問題がない。コロナ収束後もこのままで良いし、以前に戻った方がむしろ負けだ。では工場はどうするか。やはり現場の自動化は進み、事務処理も自動化される。よくデジタル化のデメリットを問われるが、メリットにまずフォーカスすれば良い。デメリットのあるところはやらないだけだ。
そしてデジタルエンジニアリング。日本ではなかなか3次元CADが浸透しないが、なぜ2次元CADに固執するのか、と不思議に思う。2Dの優位性はどこにもない。3Dの設計教育は必要だが、3Dで設計したら2Dに翻訳することなく、そのまま3Dデータを流す。これがデジタルエンジニアリングだ。モノづくりで一番付加価値を生むのは、何を作るかだ。売り方が良くても設計や製品企画が悪ければだめだ。設計の前段階である構想設計での設計開発部の負荷を減らす。アナログ脳内モノづくりに充てる時間を増やすための、3Dデータ活用だ。
付加価値を生まない作業にはIoTを活用する。開発・設計から販売・サービスまでをIoTでつなげば、納期回答やプリメンテナンスなどさまざまなところに活用の可能性が広がる。ただ、一気に進めなくても良い。費用も考えてスモールスタートを推奨する。
AIについては自動外観検査や故障予知などさまざまなところに使われ始めている。しかし、特定な分野に特化したプログラムは、弱いAIというか、人工知能ではなくて学習エンジンと呼ぶべきものだ。汎用的な知能を有する強いAIにすべきかどうか考えなければならない。
中小企業の経営者はIoTやAIを適切に導入し、時代について行こう。行政にはスマートモノづくりの支援体制づくりや、デジタルエンジニアリングの人材教育体制整備に期待する。
【講演】中小機構支援事例 IoT対応無人化工場の実現に向けて
ひびき精機社長 松山英治氏 機械で稼ぐ現場力強化
当社が目指す無人化工場実現に向けた「機械で稼ぐ現場力の強化」を紹介する。当社は1967年山口県で創業し社員は98人。半導体の製造装置部品が売り上げの9割を占め、航空宇宙関連部品や各種精密機械部品も作っている。アルミやステンレス、チタンなどを削って作る高精度部品だ。
父が旋盤2台で始めた会社だが、平成に入り若い人が全く入社してこない時期があった。技術技能伝承企業になって、きつい、汚い、危険の3Kを払拭(ふっしょく)しなければならないと考え、まず冷暖房完備の工場を作った。若い人が入り始めお客さんが増え始めたので、社内LANを構築し、顧客からの情報も含め社員皆で共有しようとした。手探りで構築し、アナログとデジタルの融合企業を標榜(ひょうぼう)するようになる。
半導体不況、リーマン・ショックなどを乗り越え、航空宇宙産業への参入を目指し、IoTの活用に積極的に取り組んだ。世の働き方改革の流れもあり、その流れを工場のデジタル化に利用しない手はない、と考えた。そして今年、機械に稼がせる工場として、第3工場を建設した。
機械に稼がせ、ほぼ無人で必要な時だけ人がいる。普段は真っ暗でも良い。必要なのは長時間機械を稼働させることで、そのために生産の工夫が必要だ。作業をマニュアル化し、経験2、3年の若い人でも作業できる仕組みを作る。モノづくりの業務を細分化して、付加価値の高い業務だけを人が実践していけば、企業価値が上がっていく。
第3工場を計画していた2年半前に、中小機構の方が来社され、以前から気になっていたTPM活動について相談したところ、サポートを買って出ていただいた。古くさく聞こえるが、当社は職人文化とIoT化を目指している。それをイメージしながらTPM活動について学んだ。
ロスを低減し、持続的に利益を確保できる体質作りのために、1年目は第2工場、2年目は本社工場と、作業改善や設備化以前を行う文化を根付かせる指導をしていただいた。現状調査から始めたところ、機械の稼働状況が45%しかない、といったこともあった。IoTとTPM活動を融合して、トランスフォーメーションの意味も込め当社では「TPM X」と呼んでいる。他の取り組みの相乗効果もあり、年間2000時間の削減効果があった。そこで上がった利益は従業員に分配した。働きがいを感じてモチベーションが上がってくれれば良い。
新工場の形が見えてきた頃に新型コロナウイルスにより世界が一変した。ウィズコロナでのデジタル化。私たちは戦い方を変えなければならない。そこで、組織を見直し、変革への意志、仕事の価値観の共有、デジタル化の加速を徹底することにした。
さらにスマートファクトリーの実現に向けて、工場での第5世代通信(5G)のトライアルも行っている。NTT西日本、山口県の支援を受け、5Gが工場のデジタル化にどう寄与していくか実験を始めたところだ。
施策紹介
中小機構経営支援部企業支援課課長 佐々木健氏 経営診断などで支援
日本の経済において企業数の99%、雇用の7割、GDP(国内総生産)の5割を占める中小企業のための、国の政策を実施する政府機関として、全国の拠点からサービスをお届けしている。現在の環境変化としては、人口減の社会、働き方改革、新型コロナウイルス、激しくなる自然災害などがあり、これらによって労働・生産側としては、人手不足、労働時間の減少、出勤の減少などが見られる。消費側としても消費の減少が起きている。拡大型の経済における、労働投入量を増やし生産と付加価値を上げるビジネスサイクルが成り立たない時代だ。
解決の頼みの綱として、デジタル、IT、人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)、ロボットなどがあるが、その活用には課題がある。経営陣が旗を振って、何を目指すのか、デジタル化をどう使うかを明確にして、社内人材を育てなければならない。
こうした課題解決に寄与するため、中小機構はいくつかのサービスを届けている。4月に始めた無料のサービスであるIT経営簡易診断は、専門家との3回の面談を通して経営上の課題を整理して戦略マップを提供する。二つ目はやはり専門家がじっくりと半年以上助言するハンズオン支援事業だ。デジタル化は非常に大変な作業だが、意欲ある中小企業を中小機構は応援している。
(2020/10/13 05:00)