産業春秋／分断から融和へ

米大統領選挙の開票状況に気をもんだ読者も多かったろう。民主党のジョー・バイデン氏が当選に必要な選挙人の過半数（２７０人以上）を確保し、当選確実となった。僅差での勝利は米国社会の対立や分断の根深さを世界に印象づけた。

バイデン氏は勝利宣言演説で「国民を分断ではなく、団結させる大統領になることを誓う」と融和と協調を訴えた。初の女性副大統領になるカマラ・ハリス氏は自身の人生を振り返り、米国が多様性とチャンスを与える国であることを示し、感動を呼び起こした。

本来ならトランプ大統領が敗北宣言した後に行うのが慣例の演説だが、そうはならなかった。トランプ氏が退場しても“トランプ現象”の火種は消えない。

「共通の民族的起源を欠く米国の人々を結集させてきたのは、まさに民主主義と人権の理想に対する共通した信奉」―。ケネディ大統領の特別補佐官を務めた歴史学者アーサー・シュレジンガーは、著書『アメリカの分裂』で「国民的結合力という絆」に危機感を抱く。

高度に分化した社会が、どのように一体性を確保していくか、民主主義のモデルを示すのも米国の役目だ。新たな大統領と副大統領のタッグに期待したい。