モノづくり日本会議/京都スマートシティエキスポ2020 安寧で持続可能な未来を創る地域と産業―「超快適」スマート社会の創出―

(2020/12/29 05:00)

京都スマートシティエキスポ2020が10月27日から12月31日まで、オンラインで開催されている。京都府はじめ自治体、産業界などで構成する京都スマートシティエキスポ運営協議会が主催(モノづくり日本会議協力)。コロナ禍に配慮したシンポジウムの常時配信や、出展企業の最新技術・サービスについてのバーチャル展示会など多彩なプログラムを展開。社会課題をICT(情報通信技術)活用で解決するスマート社会実現を目指す。

新しい価値や技術発信

  • バーチャルな展示会も開催

京都スマートシティエキスポは7回目の開催で、昨年まではけいはんな学研都市を中心に内外の登壇者によるセミナーや、最先端技術の展示などを展開した。今回は初のオンライン開催で10月27、28日はシンポジウムなどのライブ配信を中心とし、翌日以降はオンデマンド配信している。一部のパネルディスカッションは非公開で会場収録した。京都でのビジネス展開奨励も行う「スタートアップフォーラム」や、飯泉嘉門徳島県知事(全国知事会長)らが登壇する「全国自治体交流シンポジウム」も開催。

バーチャル展示会は来場者との双方向のコミュニケーションができる展示ブースを、企業や自治体などが設置し、問い合わせへの対応や具体的な商談も積極的に行われた。同時開催として「けいはんなビジネスメッセVirtual」「NEXTモビリティEXPO」も行われ、電気自動車など一部のリアル展示も、けいはんなプラザで実施した。

西脇隆俊京都府知事は「新しい価値や技術を発信してスマート社会の可能性を感じる内容となっている。ニューノーマルの時代の姿を示す場として期待する」とした。中本晃京都スマートシティエキスポ運営協議会会長(京都工業会会長)も「産業界はIoT(モノのインターネット)やAI(人口知能)など先端技術を使い、新しい生活様式に適した製品の開発に取り組んでいる。先端技術をあらゆる産業に活用し、直面する多くの社会課題解決に貢献したい」と意欲を示した。

パネルディスカッション 知の巨人 国際会議 ニューノーマル時代の人類へ

出席者

《パネリスト》

国際日本文化研究センター 准教授 磯田道史氏

理化学研究所 理事 小安重夫氏

Mistletoe Japan 創業者 孫泰蔵氏

編集工学研究所 所長 松岡正剛氏

《コーディネーター》

国際高等研究所長 松本紘氏

  • 磯田氏

  • 小安氏

  • 孫氏

松本

 コロナに振り回され生活も大きく変わっている。免疫学、歴史学、企業家の立場、文化全般とさまざまな識者に意見を伺う。

小安

 感染症は人類の歴史と共にある。コロナウイルスとして今回のはこれまで知られた中で7番目。世界的に人の動きが止まったが、一方で専門家の知識を提供するなど、オープンサイエンスが進む動きもある。

磯田

 歴史学から見ると、人類は新しい生活の段階に入ると感染症に襲われてきた。今回はジェット機で世界中の人が飛び回れるようになったこと。この感染症は思ったより長く暴れるだろうが、終わらなかったパンデミックはない。

 東日本大震災以降、社会を良くするために必要な新しい事業をどう立ち上げるか考え、16カ国200社あまりのスタートアップに投資してきた。これまでの分業を前提とした中央集権的なまちづくりから、インフラも含め「融業」で自律分散的なものに転換する良い機会だ。

松岡

 コロナウイルスのように世界をまたぐものはいろいろある。自然科学、文化、歴史といったものの境界を改めて考え、情報の蓄積と越境について見つめ直す。

小安

 コロナ禍ではもちろん正しい情報が大切だが、リモートでの発信が増えた一方で、対面の重要性もわかってきた。

磯田

 21世紀の人類は宗教も国もカネも、あなたとは違うという意味で「分ける」ことを進めてきた。逆に天地万物一体の世界というか、科学思想も「溶ける」方向に変わる必要があるだろう。

  • 松岡氏

  • 松本市

松本

 デジタル化が加速し、大学では分業化が進んだ。こうした混乱時には科学者をはじめとして、自己の利益を優考えるよりも、横の連携が重要だ。

小安

 人類皆の情報が均一ならウイルスに全滅してしまう。これからは多様性と共生の時代だ。

 失われた30年といわれるが、自分も含め上の世代の意思決定者が、若い世代に「失敗する権利」を与えてこなかったから。失敗してもどんどんやってもらおう。私たちには「一隅を照らす」フォロワーシップが必要だ。

松岡

 情報の正体を解くための、融合した技術開発・共同研究が求められている。

松本

 生活が大きく変化したが、正しく恐れよう。その上で、物事を深く、広く、永い時間軸で考察することを身につける。

パネルディスカッション 京都の社会デザイン コレクティブ・インパクトが生み出す京都の未来図

出席者

《パネリスト》(京都府「危機克服会議」参加委員・メンバー)

京都試作ネット 代表理事 鈴木滋朗氏

COS KYOTO 社長 北林功氏

共栄製茶 社長 森下康弘氏

セブン商店会 会長 林定信氏

祇園新橋景観づくり協議会 代表 奥田朋子氏

ツナグム 社長 田村篤史氏

PwCコンサルティング 公共事業部パートナー 宮城隆之氏

京都府 副知事 山下晃正氏

《ファシリテーター》

PwC Japanグループ 荒井叙哉氏

山下

 スマートシティエキスポは7回目で、社会課題を解決するにはどういう技術・サービスで新たなイノベーション、ビジネスにつなげるか考えてきた。さらに議論・実践するため、危機克服会議を立ち上げて、さまざまな分野から参加いただいている。

鈴木

 ものづくり産業分野から、40社が参画する試作ネットの代表として加わっている。コロナ禍で失った売り上げは戻らないが、空いた穴を新ビジネスで埋めるよう、会議名は「機会創出」でどうか。企業間の壁がなくなってきたことが成果で、10年前と比べ緩やかな連携ができている。

  • 山下副知事はリモート参加

北林

 伝統産業分野では、21世紀に合った革新が求められている。業種内に壁があったとしてもアクリル板程度。各人の軽やかな気持ちが将来の連携につながる。コロナ禍でのリモート会議など距離の壁はなくなった。

森下

 食関連電業として製茶について報告すると、去年の霜害、今年のコロナ禍のため、抹茶などは大きな被害を受けた。京都ならではの伝統的なサプライチェーンを生かしつつ、新しい連携につながるよう改革のスピードを上げる。

 地域に必要な商店街を目指しているが、コロナ禍には大規模自然災害と同様の厳しさを感じる。自分の店を守る自助、商店街でアイデアを出し合う共助、その上で公助を活用しよう。当会は歴史も浅いが、府下には300の商店街があり、その絆はまんざら捨てたものではない。

奥田

 祇園の料理旅館で育ち、学生時代は京都が嫌いだったことも。コロナ禍は日本人が文化を見つめ直す機会で、変化に対応できる者が生き残る。京都は本物の街であり、ライブ感あふれる生きた文化がある。

田村

 京都への移住や、働き方についてのプロデュースをしている。この会議の議論で未来に向けた産業のあり方を提示し、新たな人材を呼び込む機会としたい。

宮城

 コレクティブ・インパクトは困難な社会課題をステークホルダーを巻き込み、同じ方向を向き、アクションを起こすこと。京都での議論を世界に発信する。

荒井

 リモート開催が多く、初めて顔を合わせるメンバーもいたようだが、活発な議論となった。

山下

 地域コミュニティーのつながり方も多層的で、これは京都の強みだ。

ニューノーマル時代に求められる街のデジタル化

シスコシステムズ会長 鈴木和洋氏 社会激変はチャンス

激動の1年にあっても、スマートシティーは少しずつ進化した。当社は35カ国70のプロジェクトに参画している。都市の設備やファシリティーをつなぎ分析・活用し、サービス提供する。バルセロナや韓国・ソンド、米アトランタのスタジアムを中心としたコンパクトシティーなども注目されている。

国内でもスーパーシティー法案の成立、デジタル庁創設など大きな変化があったが、これらをチャンスととらえる。ICTを使った新しい観光や、患者・医師の安全を図るヘルスケア、海外とも交流するオンライン教育、密を避けるオンライン行政サービスなど、さまざまなモデルが進んでいる。

京都でもスマートサイネージを府内に設置して周遊を促進するスマート観光に取り組んでいる。ニューノーマルの時代に求められる街を、総合計画策定から運用の支援まで、自治体や地域の皆さまと一緒に考え、創っていくパートナーとしての役割を果たしたい。

グローバル視点で考える持続可能な社会構築に向けて

PwC Japanグループ代表 木村浩一郎氏 自治体が重要な役割

社会の変化が早く予測は難しいが、格差の拡大、さまざまな分断、社会の信頼低下など外部環境の変化が進んでいる。いつかは訪れる変化が加速したと言っても良い。しかし、悲観的にばかり考えなくて良い。日本は格差や信頼などについて、学ぶべき社会だと世界から注目されている。

こうした変化を解決するために、多くのNPO法人なども取り組んでいるが、やはり日本では地方自治体が重要な役割を果たす。今後の社会はグローバル化の限界を迎え、ローカルファーストで成長・成功の定義を再構築すべきだ。そこで求められるリーダーも、グローバルマインドを持ったローカリストであったり、伝統を重んじる改革者であったりする。

日本社会は人口が減少し、デジタル社会の技術人材も不足している。そうした中で経済を縮小させずインフラを維持管理する解決手段の一つは、社会課題を解決する課題ドリブン型のスマートシティーだ。

ポストコロナ時代の幸福社会

日本テレネットスマートライフ研究所所長 月尾嘉男氏 多様な価値観で共生

今回のパニックが終わった時に、どういう社会を構築していくべきか、幸福という視点から考えたい。600年前の“ポストペスト”では物々交換から貨幣経済に移行したように、ポストコロナではさらに電子経済に移行し、労働も都市や工場への集中型から分散労働になる。社会は年功序列から実力主義となる。大きな役割を果たすのが情報技術だ。

幸福は欲望を分母に、資産を分子にしたもの、という考え方がある。より幸福になるために分子を増大するのが欧米方式で、分母を縮小するのが東洋哲学だ。欲望は人間が受領する情報に比例する、ともいう。

日本には多様な価値観や自然、文化がある。トルストイの言葉をもじって、不幸な家庭はいずれも類似しているが、幸福な家庭はそれぞれに幸福である、と言えないだろうか。地球規模で考えても、人類は新参者である。人間は地球上の一生物に過ぎないと考え、傲慢(ごうまん)な考え方を捨て共生していくべきだ。

(2020/12/29 05:00)

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