産業春秋／蒲鞭之罰

「蒲鞭之罰（ほべんのばつ）」はぬくもりのある政治を言う。中国・後漢時代に蒲（がま）の穂で鞭（むち）をつくり、罪人に痛みより恥辱を与えたところ、犯罪が起きなくなったという故事にちなむ。

政府は新型コロナウイルス対策で特別措置法と感染症法の今国会改正を目指す。知事が時短や休業の要請に従わない飲食店などに命令を出せるようにし、従わない場合は過料を科す。入院を拒否した患者への罰金や懲役も想定していた。

感染拡大防止は時間との勝負。急ごしらえでキメの粗い改正案になるのはやむを得ないが、せめて飲食店は大手、中堅、個人で規模に見合った補償額をセットにするぐらいの配慮ができないものか。

罰則が、感染防止を支えてきた国民の良心や協力をゆがめてはならない。与野党協議で懲役刑は改正案からはずされる見込みだが、世界から称賛された国民の自発的な衛生対策が強制力を帯びるのは残念だ。

十分な補償を伴わない罰則は、革の鞭で弱者を打つに等しい。罰金を払って営業を継続する店や、罰金を恐れ検査を受けない人が増える可能性もある。今ほど寛容さが欠かせない時はない。社会の不安な空気を読み違えないよう、為政者は蒲鞭之罰の発想を心に刻んでほしい。