(2021/2/25 00:00)
多様な市場ニーズに対応すべく、オープンイノベーションを全国各地で展開するパナソニック。その中で唯一、大学構内を拠点とするのが2017年に設立した「パナソニック・千葉工業大学産学連携センター」だ。ロボット研究で国内有数の実績を誇る千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)と組み、新たな家電開発のあり方を探っている。
パナソニックのロボット掃除機「ルーロ」シリーズ。20年春に投入された最新モデルのベースとなるコンセプト機は、fuRoと共同で開発を行った。市販されたモデルにはfuRoが開発した高速・低負荷な処理を実現するSLAM(位置推定と地図作成を同時に行う技術)や人の足元を認識して自動追従する機能も備えたことで、本体移動のちょっとした手間を軽減できる。マットなどの段差を検知すると、車輪を押し出して本体を持ち上げて自動で段差を乗り越える―。こうした特徴的な機能は、主にfuRoから提案されたものだ。
産学連携自体は、パナソニックとして珍しいことではない。ただその多くは、個々の技術要素に特化した基礎研究が中心だった。だが今回はより包括的なテーマであり、「製品開発」を前提に進められた。パナソニックアプライアンス社イノベーション推進室の尾関祐仁主幹は、「まず連携してみて、そこから何かを生み出すというやり方は初めてだった」と語る。
当然、開発は順風満帆とはいえなかった。企画段階では、信頼性や価格受容性を重視するパナソニック側と、機能の新規性を重視する大学側とで、意見がかみ合わない。専門用語の使い方が、企業と大学で大きく異なっていたことも、難航に拍車をかけた。結果的に双方のトップ同士が乗り出し、意見の擦り合わせの基本方針を決定。それがあってようやく、現場での打ち合わせがスムーズに進むようになった。
開発手法も新たな挑戦だった。企画から設計、開発、製造までに時間をかける従来手法は高信頼なモノづくりを担保する一方、時に市場ニーズを取りこぼしかねないという課題もあった。そこで今回、短期間に試作と改良を繰り返す「アジャイル開発」を採用。特にこの連携事業については、そのコンセプトモデルを、18年秋の創業100周年記念イベントにおいて発表することが決まっていた。実質的に与えられた期間は3か月。パナソニックでもアジャイル開発自体は既に導入しつつあったが、これほどの短期間で進めるのは初めてだったという。無事イベントでの発表を終えた後、さらに微調整を続けた上で量産モデルを20年に投入。特徴的な機能を盛り込めたのも、この短期間開発があってこそだった。
オープンイノベーションは、連携の場や優秀な人材を用意しても、必ずしも成功するとは限らない。重要なのは”意見の擦り合わせ〟。一見、使い古された言葉だが、「技術ごとに担当者が細分化された組織では意見集約が難しい。一人一人が広い守備範囲を持つ今回の手法から学ぶことは多かった」と、アプライアンス社技術本部の西岡伸一郎主任技師は振り返る。大企業特有の課題に対する一つの答え-。千葉工大との連携は製品開発における大きな転換点になりそうだ。
(2021/2/25 00:00)