産業春秋／修語録は続く

「挑戦するのが人生。バイバイ」。自動車業界のレジェンド、スズキ会長の鈴木修さんが６月で退任する。“修語録”と呼ばれる数々の名言を残した名経営者は引き際まで粋だった。

「うちは中小企業」が口癖。インドにいち早く進出した「カンピューター」や、草刈り代を浮かせるためにヤギを飼った「ケチケチ経営」など、経営手腕にまつわる伝説には枚挙にいとまがない。

インド市場を開拓した先見性、フォルクスワーゲンとの提携・解消交渉で見せた豪腕、車格が合わないと米国と中国市場から撤退した決断力。ワンマン経営への批判や弊害もあるが、それを差し引いて余りある才覚と経験、実績に異論はあるまい。

常に枕元にメモを置き、気になったことを書き留める。毎年、国内外の工場を隅々まで歩き、燃費不正の際は全国の業販店をおわび行脚した。ぜいたくもせず、ひたすら汗をかき続けた日々。

「自らの引き際を決められる経営者は幸せ」と話した経営者がいた。鈴木さんも「納得できて辞めることになりました」という。相談役に退いても「戦う姿勢は変わらない」と言うから、今は「お疲れさま」でなく、生涯現役への挑戦を応援し、新たな修語録を期待したい。