(2021/3/8 05:00)
林野や農地あるいは路面の下や足もとなど、どこにでも見られる土壌。そんな土壌が凍結すると、冷熱源や高硬度、遮水性、吸水力などの優れた能力を発現する。凍土には融解すると元の土壌に戻る環境に優しい一面もあり、こうした凍土の特有の性質は軟弱地盤の改良に用いられるだけでなく、さまざまな資材や環境制御に応用できる可能性がある。
三重大学大学院生物資源学研究科 土壌圏循環学/土壌圏システム学研究室 教授 渡辺 晋生
日常に存在する凍土
凍土というと、シベリアやアラスカに広がる永久凍土地帯を思い浮かべる方が多いと思う。または近年の温暖化の影響で融解した凍土から、マンモスや過去の遺伝子情報が出土したなどの知らせを聞いたことがあるだろう。こうしたイメージから、凍土はどこか日常の生活圏から遠い存在と感じられるかもしれない。
しかし、冬季に土壌が凍結する季節的な凍土も含めると、凍土地帯は全陸地の7割以上を占める。日本でも霜柱を目にする地域や冬の朝に路面が凍結する地域は、短期的な凍土地帯である。凍土は意外にも身近な存在といえる。
凍土の性質 地盤補強や遮水に応用
凍土には冷熱蓄源や温度緩衝能といった特有の熱的性質の他にも、高硬度と遮水性といった魅力的な性質がある。水分を十分に含んだ土が凍るとコンクリートなみに硬くなり、水を通さなくなる。仮に亀裂や穴があいても水の再凍結により凍土は自己修復する。
こうした性質は、例えば地盤凍結工法と呼ばれる、地下トンネル工事の軟弱地盤の補強や遮水に応用される。この工法は対象となる地盤に凍結管を設置し、凍結管に塩化カルシウムなどの冷媒を循環することで、必要量の凍土を造成する。
土壌に固化剤を注入することもなく、解凍後は土が施工前の状態に戻るため、環境に優しい工法でもある。もし我々に地下を透かし見る目があれば、東京の地下に凍土が点在することに気づくであろう。
同工法の類例として、東京電力福島第一原子力発電所では、廃炉作業の地下水流入対策として、凍土遮水壁が造成されている。運用開始から既に5年がたっており、人工凍土の長期維持の技術が蓄積されている。
また、一次冷媒にアンモニア、二次冷媒に地盤を凍結する液化二酸化炭素を活用する自然冷媒利用の新しい工法も開発され、人工凍土造成の設備や配管の小型化、省エネ化も進んでいる。
透水と凍結 関係解明重要に
一方、比較的乾いた凍土は水を通す。水が通ることで融解してしまう場合もあれば、徐々に水が凍り強固な凍土となる場合もある。不飽和地盤に人工凍結工法を展開し凍土を維持するためには、こうした土中の透水と凍結の関係を明らかにする必要がある。
また自然環境では、春先の凍土にどのタイミングでどの程度水が浸透するのかが、表面流出に伴う土壌浸食や河川の水質劣化、地下水のかん養や土中窒素の再分布を決める。
そこで、筆者は人工凍土のより有効な利活用や寒冷地の土壌・水資源の管理・保全を目的に、不飽和凍土や融解過程にある凍土の透水現象の研究を進めている。
溶質移動現象/農地の養分管理に期待
ところで、土の凍結時には未凍土から凍土への吸水力が発現し、未凍土中の水分が凍土に引き寄せられる。この際、アイスレンズと呼ばれる氷晶が析出すると、水分移動量は増大し、凍土はアイスレンズの成長量分だけ膨張する(凍上現象)。
こうした土中の水分移動に伴い、未凍土中の溶質や汚染物質も凍土に向かって移動する。水はゆっくり凍らせると、凍結面から不純物を吐き出しながら氷になる。冷凍庫で砂糖水を凍らせると、氷の表面に濃縮されたシロップが残るように、同様の吐き出しが土中の凍結面でも生じる。すなわち土中の凍結面周辺には、凍結の仕方や土質に応じて、対象とする溶質や汚染物質の濃縮が生じる。
こうした現象に着目した土壌浄化(クライオ・レメディエーション)を他の浄化技術と組み合わせて構築できないだろうか。凍結に伴う土中の溶質移動を制御し農地の養分管理への利用などが期待されている。
中国の北部には広大な塩類集積土が凍結にさらされており、主要な農作物栽培地区として生態環境の改善や、建設現場では塩による腐植を防止する取り組みが今まさに求められている。さらに、凍結に伴う水分・溶質移動や氷晶析出は、土に限らずさまざまな粉粒体で生じる。筆者らの進める土の凍結・融解の研究を通して、こうした課題解決に貢献していきたいと考えている。
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本特集においては、2050年CO2排出ゼロの達成に向かう産業界の取り組みを中心に、SDGsとビジネスの関わり方を紹介します。⇒ スマートフォンでご覧の方はこちらから紙面PDFをご覧いただけます
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(2021/3/8 05:00)