(2021/3/29 05:00)
強硬措置一辺倒ではない外交・安全保障政策を期待する。
防衛省・防衛研究所は2021年版の「東アジア戦略概観」をまとめた。周辺諸国の安全保障状況を専門の研究員が分析したもので、政府の公式見解ではない。ただ米中関係が悪化の一途をたどる中で、日本の立場を理解するのに役立つ。
中国については、新型コロナウイルス感染症で高まる国民の不満に直面した政府が、社会統制や対香港・台湾政策を強硬化したと分析。米中が「新冷戦」に入ったとの見方を示した。中国は豪州やインドとも対立し、欧州諸国の警戒を招いている。
韓国は対北朝鮮の融和姿勢が顕著であり、米韓協力には抑制的。日本との関係も改善が見られない。東南アジア諸国は南シナ海で中国の示威的な活動にさらされており、海上戦力の強化に取り組んでいる。
米中両国は、日本を含む各国への影響力を強めている。この「分断の圧力」はコロナ禍によって加速された。
一方、世界政治が米中の大国間競争に直面する中で、各国で多元的現象が起きているとの指摘は興味深い。豪州は中国への対抗措置を強化する一方、米中競争への深入りを回避しようとしている。欧州は中国との立場の違いが顕在化し、対米関係の修復に動きつつも、米中双方とバランスをとりつつ戦略的自律を追求しているという。
日本から見ても、経済力と軍事力拡大を武器に“力による現状変更の試み”を加速する中国の行動は国際世論に反したものだ。尖閣諸島沖合では中国側公船が、わが国領海に侵入して挑発を繰り返している。こうした不法行為には、米国はじめ各国と連携しつつ毅然(きぜん)として対応しなければならない。
しかしながら、米中の『新冷戦』が世界経済を決定的に分断することを、わが国産業界は望まない。個々の企業においては中国市場の依存度を引き下げ、かつてのレアアース輸出禁止措置のような危機に備える必要もあろう。しかし外交面では、経済活動を持続する多元的な対応が重要となる。
(2021/3/29 05:00)