産業春秋／最後の緊急事態宣言

きょうは『検疫記念日』。１８７９年、日本最初の検疫法令「海港虎列刺（コレラ）病伝染予防規則」が公布された日にちなむ。明治政府はコレラを輸入感染症と考え、流行地から入港する船舶を沖合で７日間停泊させた。

欧米諸国は疑念の目を向ける。ドイツ船「ヘスペリア号」は停船要請に従わず横浜港に入港する。臨検のために乗船する日本の検疫官がコレラを船内に持ち込まないか恐れたとの話もある。事実、７９年と８６年の記録的大流行は輸入感染ではなく国内が発生源になった。

緊急事態宣言下で東京五輪が２３日開幕する。原則、無観客開催となったことで感染リスクは減少したが、来日する選手や関係者から変異株などの市中感染が広がる不安は拭えない。検疫での水際作戦が大会の成否を握る。

日本が感染源になるリスクにも細心の注意を払いたい。国民の多くが開催に不安を持つ五輪でもレガシーは残せるはずだ。今となっては訪日外国人を安全な状態で帰国させることが最高の「おもてなし」だろう。

国民にできることは五輪を契機に行動自粛のたがを締め直すことだ。切り札のワクチン効果が浸透するまでもう一踏ん張り。今回の緊急事態宣言を最後とするために。