(2021/8/12 05:00)
地球は水の惑星だった。どのようにして陸ができたのだろうか。小笠原諸島の西之島は2013年に40年ぶりに噴火し、現在も陸地の拡大を続けている。西之島の噴火には海から陸ができる謎が隠されていた。ところが20年に起きた噴火はこれまでと全く様相が異なり、マグマの成分も変化してきたことから地殻が融解する可能性が大きくなっている。西之島にいま何が起こっているのだろうか。
海洋研究開発機構 海域地震火山部門 上席研究員 田村芳彦
大陸形成プロセス
地球は太陽系で隣り合う金星や火星と比較して、際立つ違いを持っている。それは地球の表面の7割を占める海洋と残りの3割の陸地の存在である。地形の低いところが海、高いところが陸と思われがちだが、実はそうではなく、海底と大陸では、つくっている岩石(地殻)が異なっている。海洋地殻は6キロ-8キロメートルと薄く、密度の大きい岩石(玄武岩)でできており、大陸地殻は30キロ-50キロメートルと厚く、密度の小さい岩石(安山岩)でできている。大陸にも玄武岩から流紋岩の多様な岩石が存在するが、平均すると安山岩組成となり、最も安山岩が多い。金星や火星には安山岩は存在しない。
西之島は13年11月、40年ぶりに噴火した。大地・大陸がどのように誕生したかを知る手掛かり、またそのプロセスが「大陸の誕生」を再現している可能性があるとして注目を集めた。その理由は、絶海の孤島から「大陸をつくる岩石」である安山岩マグマが噴出しているからである。
伊豆小笠原弧は本州の南に連なる火山島、海底火山の列で、北部の伊豆弧には伊豆大島、三宅島、八丈島などの伊豆七島があり、南部の小笠原弧は、西之島以外は海底火山である。フィリピン海プレートに太平洋プレートが沈み込むことによって火山活動が起こっている
西之島は「地殻の厚い大陸に安山岩マグマは噴出する」という従来の常識を打ち破る火山であった。地殻が薄いと考えられていた伊豆諸島(伊豆大島、三宅島、八丈島など)は玄武岩マグマしか噴出しない。太古の地球(ウオーター・ワールド)は玄武岩の海底に覆われており、大陸がなかった。海洋で玄武岩マグマしか噴出しなければ、最初の大陸はどのようにしてできたのだろうか。
これまでの研究で、従来の常識は徐々に崩れてきた。日本列島に噴出する安山岩マグマは、もともとあった安山岩質の地殻が玄武岩マグマによって溶かされて生成していることが明らかになってきた。さらに伊豆弧は、大陸同様の30キロメートルの厚さの地殻を持っていることが地震探査でわかってきた。太古の地球に類似するのは、地殻の薄い小笠原弧の海底火山であり、西之島がその代表的な火山である。西之島から安山岩マグマが噴出しているということは、「海において大陸が形成される」ことを実証している。
火山活動によって引き起こされるカルデラ噴火の可能性
西之島は現在まで、4回の噴火期(噴火ステージ)と休止期を繰り返している。火山活動は①第一期13年11月―15年12月(継続期間2年)②第二期17年4月20日―8月(継続期間120日)③第三期18年7月12日―7月30日(継続期間20日)④第四期19年12月6日―20年8月(継続期間270日)となっている。
第一期から第四期までの噴火のスタイルは総じて安山岩溶岩を噴出するストロンボリ式噴火であった。第四期の終盤である20年6―8月に、これまでの安山岩溶岩流出とは様子が一変して、大量の火山灰を噴出する爆発的な噴火が起こった。このような噴火は全く予想されておらず、溶岩で覆われていた西之島を厚い火山灰が覆い尽くした。
さらに成長して円すい形をしていた火砕丘は、第四期の激しい噴火によって拡大し、標高は1・7倍の260メートル、直径600メートルの巨大な火口を形成した。この噴火様式の急激な変化は、近い将来のさらなる爆発的な噴火を示唆すると考えられている。
伊豆弧・須美寿島の直径10キロメートルのカルデラのように、海底火山においてもカルデラを形成する巨大噴火が知られている。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の潜水艇で観察すると、このカルデラとカルデラ壁には巨大噴火により大量に噴出した流紋岩マグマ(軽石)が見られるが、その下位には二つの様式(バイモーダル)の火山活動(白黒火山灰の互層)が見られる。
これは温度の高い玄武岩マグマが貫入して、安山岩の地殻を溶かしていることを示していて、前者が黒い火山灰や玄武岩溶岩、後者が白い火山灰や軽石となって同じ時期に交互に堆積したものである。マグマの組成の変化と噴火様式が地下での出来事と密接に関係していて、バイモーダルな火山活動が地殻を溶かして陥没させるカルデラ噴火の前兆となっている可能性がある。
20年の西之島の爆発的な噴火で、噴出した大量の火山灰などの火山砕屑物(さいせつぶつ)は、島だけではなく周辺海域に堆積している。そこでJAMSTECでは20年末に、海底調査により西之島の海底斜面に堆積した火山砕屑物を採取した。
使用したボックスコアラー採泥器は、鉄の箱を海底に落とし、海底の表層(面積0・1平方メートル、深さ20センチメートル前後)を採取するものである。また無人探査機による潜航で、西之島から15キロメートル北の水深2500メートルにおいて、厚さ約1メートルの白黒火山灰の互層を発見し、未固結の火山灰を採取した。
これらの結果から20年の爆発的噴火が、高温の玄武岩マグマが関与したバイモーダル火山活動であったことが明らかになりつつある。西之島が、今後もし玄武岩マグマ主体の噴火様式に変化していくと、今まで安山岩質であった地殻の融解が進み、カルデラ形成の可能性も大きくなる。
一方、西之島周辺は地殻自体が薄いため、再び安山岩マグマ主体の噴火様式(大陸生成過程)に戻る可能性もある。今後の噴火動向を注視し、噴火時にはできるだけ迅速に火山灰や溶岩を採取して検証していくことが必要であろう。
(2021/8/12 05:00)