産業春秋/和紙とコンニャク

(2021/8/13 05:00)

ユネスコ無形文化遺産に登録された細川紙の産地、埼玉県小川町には銃後の悲しい歴史がある。太平洋戦争で風船爆弾に使われた気球紙の一大生産地となった。

高度1万メートル、北米大陸まで約9000キロメートルを偏西風に乗せて72時間で飛ばすには直径10メートルの気球が必要―陸軍登戸研究所はこう結論づけ、1944年に「ふ号兵器」としてひそかに正式採用する。

軽さが必須条件の気球紙は、向こう側が透けて見えるほどの薄さが求められた。小川には400軒超の紙すき屋があったが、腕利き職人のいる工場が選ばれ、昼夜兼行で大量発注に対応した。

学徒勤労動員の女学生らが極薄の気球紙5枚をコンニャクのりで貼り合わせると風船の原紙になる。町立図書館で実物に触れ、強度に驚いた。戦後の米軍による調査で米軍使用のゴム引き気球布と比べ水素ガスが漏れにくい素材と判明した。

米本土への直接攻撃は心理的な動揺を狙った。爆弾をつるした約9300発が関東の太平洋沿岸から放たれ、米西海岸などに1割前後が着弾。ピクニック中の子どもたちが犠牲になったとの記録もある。15日は76回目の終戦の日。和紙とコンニャクまで兵器に化ける戦争のおぞましさを語り継がねば。

(2021/8/13 05:00)

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