(2021/8/23 00:00)
新型コロナウイルスの影響から世界経済の回復が進む中、工作機械向け製品を手がける台湾企業が日本で活躍の場を広げようとしている。高水準の品質管理や納入までのリードタイムの短さ、他社より安い製品などを武器に日本展開へ注力する背景には、日本企業と信頼関係を深め品質向上やグローバルの顧客開拓につなげたいという狙いがある。台湾企業4社に自社の強みや日本市場を目指す理由、今後の展望を聞いた。
自社内での一貫生産で最短4時間を実現
「日本市場での売上は徐々に大きくなっている」。テレスコカバーやチップコンベヤー、外装用板金などを手がけるKeyarrow(キーアロー)の蔡杏玟(サイ・アスティ)氏は説明する。同社は2019年に日本事務所を設立し、日本の工作機械メーカーに製品を販売してきた。
現在、日本市場の売り上げは年間で1億円弱だが、今後5年以内に3億円を目指したいと蔡氏は話す。他社との違いは多品種少量生産と生産スピードの速さだ。自社で原材料の設定から加工・組み立て、塗装を一貫して手がけ、顧客の求める寸法や性能に細かく応じられるという。
自社内で製造が完結するため生産スピードも速い。他社では材料の仕入れから完成まで5日間かかっていたテレスコカバーを「最短4時間で製造できる」(同)。急な追加発注にも柔軟に対応できるという。これまでにグローバルで成功した事例を生かしながら、日本市場に展開していく。
KEYARROW駐日事務所
日本営業代表:蔡杏玟/Astrid Tsay(サイ・アスティ)
〒450-6321 愛知県名古屋市中村区名駅1-1-1 JP Tower名古屋21階2158
TEL:052-856-3352
DX活用で日本向けATC量産を本格化
既に日本企業と信頼関係を作り、顧客を拡大してきた企業もある。Deta International(データインターナショナル)は従業員約150人の自動工具交換装置(ATC)メーカー。09年から日本展開を始めた。
20年の同社の売上は年間4000万ドル(約44億円)。グローバル全体のうち日本市場の売上は約34%を占める。主力製品は縦型ATCで、日本の大手メーカー向けに毎月200台を出荷している。
同社の黃耀德(コウ・ヨウトク)氏は「日本向けのATCを量産して輸出できる台湾メーカーは当社くらいしかない」と胸を張る。自社の強みについて「製品に問題があればすぐに対応する。誠実な対応を常に心がけてきた」と説明する。
近年はデジタル変革(DX)に注力する。17年から生産効率を改善するソフトウエアを導入した。生産ラインに問題が生じると従業員のスマートフォンに通知が届き、問題をすぐに特定できる仕組みや、ソフトウエア上で生産状況を確認し納期やコストをリアルタイムで顧客に伝えられる仕組みを活用する。
今後は展示会を通じ日本企業へのアピールを強化する。今後3年以内に日本市場での売上を40%にしたいと黃氏は説明する。
deta International Co., Ltd
社長:黃耀德/Alen Hwang(コウ・ヨウトク)
No.47-5, Zunqian Road, Shengang Dist., Taichung 42952, Taiwan.
TEL:+886-4-25617722 ext.1132
高い品質水準で日本企業との協業を目指す
工作機械向けのオイルクーラーなどの冷却装置を製造するHabor(ハーバー)は、日本市場でのシェア拡大より「顧客と良い関係を築くことを重視している」(同社の許文憲董事長)。同社の売上のうち日本市場向けが10%程度を占める。
三重県の販売代理店と協力し、日本企業が求める高品質の製品を開発してきた。「日本企業の高い品質水準をクリアできれば、台湾や欧州でも売れる製品を作れる」ためだ(同)。他社製品は0・5℃単位でしか温度を制御できないものが多いが、同社では約10年前から0・1℃単位で制御をしている。現在は0・01℃単位での温度制御を実現しており、工作機械メーカーだけでなく、高度な技術が求められる半導体や航空宇宙、精密機械業界からも引き合いがある。
直接の顧客である工作機械メーカーだけなく、日本の冷却装置メーカーとも良好な関係を作りたいと許文憲董事長は話す。「省エネやスマート生産に関する技術を日本企業に提供し、一緒に顧客の開拓などに励みたい」(許文憲董事長)。安い価格で製品をカスタマイズでき、アフターサービスにも力を入れるなど他社との差別化を図る。
Habor Precision Inc.
社長:許文憲(HABOR HSU)
No.77, Industrial 20th Rd., Taiping Dist., Taichung City 411014, Taiwan
TEL:+886-4-2271-3588
メール:habor@habor.com
既存製品を組み合わせ、価格競争で優位に
製品のラインアップを増やし日本市場にアピールするのがHiwin(ハイウィン)だ。精密機械部品のメーカーで、工作機械や半導体、産業機械メーカーを顧客に持つ。ボールネジやリニアガイドなどを製造販売する。グロ-バルで事業を展開し、日本市場での売上は世界全体の10%程度だが「5年後には今の3倍にしたい」(同社日本法人の中田修由専務)。
現在の主力製品はボールネジ。近年は短軸ロボットやウエハー運搬ロボット、半導体装置メーカー向けの精密ステージ、ロータリーテーブルなどの開発を加速させている。「ボールネジなど自社開発の既存製品を組み合わせ、顧客のニーズにあったロボットなどをリーズナブルな価格で提供する」と中田専務は説明する。
部品の開発や生産を自社内で完結できるため、他社製品より10―20%安い価格で販売可能だ。短い納期にも対応する。他社が納品まで1年以上かかるウエハー運搬ロボットを3カ月で製造したこともある。世界14カ国に拠点を持ち、ロシアやイスラエルなど各国の拠点で製品ラインアップ拡充に向けた技術開発を進める。
直近における工作機械業界の受注状況は、中国を皮切りに日本や欧米でも回復傾向が続いている。日本企業各社は受注水準をもう一段上げるため、高品質でサプライチェーンの柔軟性に秀でた台湾メーカーとパートナーを組み、グローバル市場での巻き返しを図る。
(2021/8/23 00:00)