産業春秋/彼岸花

(2021/9/23 05:00)

曼珠沙華(まんじゅしゃげ)は、秋の彼岸のころに咲くからヒガンバナともいう。埼玉県日高市の巾着田は群生地として知られる。例年なら真紅のじゅうたんを敷き詰めたような花畑は観光客でにぎわうが、昨年に続きコロナ禍で早々と芽が刈り取られた。

ヒガンバナは実をつけず地下茎で増えるため、花は咲いても昆虫に受粉を助けてもらう必要はない。ではなぜ花蜜でチョウを誘うのか。生態学者の今西錦司は自然界の「余裕の一つ」(随想『曼珠沙華』)と推測する。

「その余裕をもって他の種類の生物を助けている」「われわれはそれをとかく無駄であるとか、浪費であるとかいうように解しがちであるけれども、自然はそんな我利我利亡者の寄り集まりではない」。

アルバイトがなくなると、すぐに生活が立ちゆかなくなる。学校が休みになれば、たちまち子育てに支障をきたす。生活困窮者や自殺者が急増し、コロナに感染しても医療機関で治療を受けることさえできない。

日本社会はコロナ以前から「余裕」を失いかけていたのだ。効率と生産性に傾斜する余り、必要な無駄までそぎ落とした我利我利亡者の社会は変化にもろい。成長の速度より質を重視する方向へ転換する時なのだろう。

(2021/9/23 05:00)

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