社説/骨太の方針(上)人的投資で企業価値向上目指せ

(2022/5/30 05:00)

 政府は6月上旬に閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」で、人的資本への投資の重要性を前面に打ち出す。企業価値の向上に不可欠な要素として、同投資の拡大と情報開示が産業界に促される。複雑化・高度化する国際社会での競争力強化に向け、積極的な取り組みが期待される。

 骨太方針は岸田文雄政権の「新しい資本主義」を具体化する内容で、企業が短期的な株主利益を追求する戦略を見直し、株主のほか従業員や取引先、顧客、地域社会など幅広い利害関係者を考慮した利益配分が求められる。人的資本、技術革新、スタートアップ、脱炭素、デジタルの5分野に重点投資することで新資本主義の実現を目指す内容となる見通しだ。

 中でも力を入れる人的資本は、人材を人件費といったコストではなく、新しい価値を生み出す資本と捉え、その価値を最大化することが期待される。企業の利益を賃上げや社会人の学び直し、兼業・副業の推進などに配分する重要性が示される。働きがいを向上させ、デジタル人材の育成や女性登用などの多様性も推進することで、企業は新たな成長軌道を描きたい。

 人的資本への投資は、取り組んでいる内容の情報開示も求められる。2021年のコーポレート・ガバナンスコード改訂で人的資本・知的財産への投資の適切な開示が盛り込まれたが、骨太方針では男女間の賃金格差に関しては従業員300人超の企業も対象とするため、中堅・中小企業は留意が必要だ。

 山際大志郎経済再生相は「男女の賃金格差が大きい企業は、人材の多様性が乏しいと見られ、マーケットで労働者や投資家から選択されにくい状況になる」と産業界に警鐘を鳴らす。

 女性活躍は企業に必要不可欠とされながら、女性管理職比率は1ケタ台にとどまり、女性の非正規率は男性より高い。男女の賃金格差は欧米の10%台に対し日本は20%台に及ぶ。

 従業員のスキル向上に取り組みつつ、偏りがちな男女の社会的な役割も見つめ直すことで選ばれる企業に近づきたい。

(2022/5/30 05:00)

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