産業春秋／出井さんの先見性

「インターネットで企業と消費者が持つ情報量は同じになる。今までのやり方は通用しなくなるよ」―。亡くなった出井伸之さんにそう教わったのは、ＩＴバブルが崩壊した２０００年より少し前のことだ。

決して経営トップを目指した人ではないように思う。ソニーの社長就任後、初の経営計画説明会で「去年は広報担当で司会だった。思えば幸せな日々だった」とつぶやいた。

ビジョナリストであると同時に短気だった。会長兼最高経営責任者（ＣＥＯ）となり、後任社長の安藤国威さんとコンビで取り組んだ構造改革は「テレビとデスクトップＰＣ」「ビデオカメラとノートＰＣ」を同じ事業部にして相互の刺激を狙うという画期的なもの。

結果的に社内は大混乱。カタカナ主体の部署名も浸透せず、部門長の名で「○○さんの事業部」などと呼ぶことも珍しくなかった。子会社のアイワが業績悪化で大リストラに沈んだ時には「足元って見えないものだね」と肩を落とした。

傑出した先見性があっても“ソニーショック”は防げなかった。企業を変えることの難しさを改めて知る。日々に変革に取り組む重要性を、我々は出井さんの事績から学ぶべきではないか。