(2022/9/5 05:00)
円安の進行が懸念される。米国は約40年ぶりという歴史的なインフレを抑制するためなら、景気が減速・後退しても金融引き締めを継続する意向を示唆している。日本経済は行動制限がない中でコロナ禍前に戻りつつあるものの、輸入物価の一段の高騰が中小企業をはじめとする企業業績に影響を及ぼしかねない。先週末に24年ぶりに1ドル=140円台に到達した為替相場の行方を注視したい。
米国は中間選挙を11月に控え、インフレ退治を最優先課題に掲げる。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は8月26日、ジャクソンホール会議(米ワイオミング州)で講演し、金融引き締めを「やり遂げる」と強い姿勢を示した。インフレ抑制は家計・企業に痛みをもたらすが、物価が安定しなければさらに大きな痛みを被ると訴えていた。
米国の足元の経済指標は底堅く、米FRBによる20、21日の会合でも政策金利の大幅な引き上げを市場は想定する。6、7月には2会合連続で政策金利を通常の3倍に当たる0・75%引き上げていた。8月のISM製造業景況指数は52・8と7月から横ばいで、同月の雇用情勢も堅調に推移しており、利上げに動きやすい。9月会合での利上げ後の為替動向を警戒したい。
金融緩和を続ける日本と米国との金利差がさらに拡大するとの観測から、先週末は98年以来の円安水準で推移した。金融不安に陥った「平成大不況」の98年は日本長期信用銀行(現新生銀行)や日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)が経営破綻し、日本の実質成長率はマイナス1・3%に沈んだ。ただ日本売りの色彩が濃い98年とは異なり、今回の円安は金利の高いドルを買う動きが加速したことによる。
財務省がまとめた4―6月期の法人企業統計調査によると、金融・保険業を除く全産業の経常利益は前年同期比17・6%増の2ケタ増だった。円安の加速はコロナ禍前への回復に水を差しかねず、政府は想定する22年度第2次補正予算で、輸入物価上昇に対する効果的な処方箋を早期に描いてもらいたい。
(2022/9/5 05:00)