社説/防衛費の“たが”外れる 問われる規律、しっかり説明を

(2022/9/2 05:00)

財政当局による予算査定が、その機能を果たせるかどうかの正念場である。

防衛省による2023年度予算の概算要求は、大げさに言えば「要求になっていない」。過去最大規模の5兆5947億円の要求のほかに、遠隔地攻撃を想定した「スタンド・オフ防衛能力」など高価な正面装備の多くを事項要求とした。

事項要求とは、予算編成過程で財務当局と協議して計上するもの。陸上イージス整備のように不透明性の高い事業の前例はあるが、これほど多くの項目は異例である。年末の政府予算案決定まで、防衛費の規模も内容も分からない。

政府は「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」方針を決めている。このための予算も国内総生産(GDP)の2%という欧米諸国の数値が目安として示された。地域の安全保障の観点からも、防衛費の増額は国民の理解を得られよう。産業界も政府の考え方を支持している。

しかしながら、その増加分を何に振り向けるかは重要な問題だ。産業界は、官民が協力して技術開発し、国内メーカーが防衛力整備に貢献することを期待している。強化を急ぐあまり、海外からの兵器輸入に傾くことは好ましくない。

財政当局は長きにわたり、前年度予算額を基準として各省の予算要求を査定する方式をとってきた。防衛費のケタ違いの急増は、従来の概算要求基準ではカバーできないのだろう。そうであっても、ブラックボックス化してはいけない。年末の政府案決定前に検討状況を説明する機会があるべきだ。

政府予算のうち、緊急性の高い補正予算や予備費の使用に対しては外部の目が届きにくい。新型コロナウイルス感染症のように、予測の難しい時は巨額の予備費による機動的な対応もやむを得なかった。しかし防衛費は同列には論じられず、何らかの”たが”は必要だ。

事項要求の拡大は、財政規律の緩みにつながりかねない。査定側の能力が試されることでもあり、当局の責任は重い。しっかりした説明を求めたい。

(2022/9/2 05:00)

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