(2023/1/10 00:00)
ダイヘンはロボットを初めて使うユーザーでも安心して導入できるようにする施策の一環として、市販のタブレットを用いて溶接対象物(ワーク)を撮影し、溶接したい箇所を選択するだけでロボットプログラムを自動生成する「タブレットによる教示レスシステム」を業界に先駆けて開発した。ロボットの操作や溶接に関する熟練した技能や知識が無くても簡単に教示作業が行えるため、操作に長けた技術者がいなくてもロボットを活用した自動化が図れる。安価でかつ使いやすい同システムで導入障壁を取り除き、中小製造業をはじめとするものづくり業界のロボット普及促進に繋げ、生産効率化・人手不足解消などの社会課題解決に貢献する。
「タブレットによる教示レスシステム」は、3次元センサー「LiDAR」搭載の米アップル製タブレット端末「iPad Pro(アイパッド・プロ)」に対応。専用のアプリを使用して教示プログラムを自動生成する。システム価格は消費税抜きで52万円(タブレット端末は別)。拡張現実(AR)マーカーとワークを同時に撮影すると、システムがマーカーとワークの位置関係を把握、画面上に溶接箇所の候補ポイントを自動で抽出し、表示する(写真1)。なお、ワークの形状によって一度に撮影しきれない場合も異なる角度から撮影した複数の画像をベースにして立体的に表示できる。
次にタッチパネル操作で候補ポイントから溶接したい箇所を選択する(写真2)。選択したポイントに対して、溶接開始点、終了点などをリストから選択すればプログラムが生成され、すぐに作業ができる(写真3)。
通常のロボット教示プログラムは、専用のティーチペンダント(TP)を操作し、実際にロボットを動かして作成する。TPは数十個に及ぶ配列キーがあり、複雑な操作が必要となる。このため、慣れないうちは、操作ミスや手戻りが発生しやすい。これに対し今回開発した同システムは〝撮って選ぶだけ〞の簡単な操作でプログラムを自動生成し、ロボットの実動作が不要となるため、効率的かつ操作ミスの少ない教示が可能。さらに、生成されたプログラムの確認や編集もタブレット画面上で行えるため、教示に関わるあらゆる操作がタブレット上で完結する。
同社社員による実験で、コの字形ワークの内面溶接プログラム作成時間を測定したところ、通常の教示作業では8・6分だったのに対し、同システムでは約60%減の3・4分と大幅に縮減できた。
「誰もが使いやすい」を追求
ダイヘンは単に標準のロボットを売り切るのではなく、ユーザーそれぞれの事情に応じて「特別にあつらえた(テーラード)」最適な解決手段を提供する「テーラードソリューションズ」を中期計画の柱の一つとして掲げている。つまり「労働力不足の解消」「働き手や働き方の多様化」はもとより、「狭隘(きょうあい)スペースでの自動化」や「設備管理の負担軽減」「作業教育者不足の解消」など、現場が抱える課題に応じた最適な解決手段(ロボットシステム)を開発し、提供するというわけだ。
同社はロボットによる自動化を促進するために、ユーザーが抱える課題に応じたロボット本体や周辺機器、自律搬送台車、用途別のツールパッケージなど製品ラインアップの幅を広げるとともに、システム構築を行うSIer機能もグループとして強化している。ユーザーサポートに含まれる「タブレットによる教示レスシステム」もその一環となる。
同システムの開発は、「だれでも使えるロボットをつくりたい」をテーマに始まった。これまでにない発想で開発を進めるため、あえて溶接に関する熟練者ではない若手技術者を中心に開発をまかせた。白紙の状態から柔軟な発想で開発することで、使いにくさの壁を一気に打ち破ることを狙った。
ロボットの教示支援機能にはさまざまなものがあるが、ロボットを初めて導入し溶接の自動化に適用するには課題があった。協働ロボットの教示手段の1つで、ロボットアームを持って直接動作させる「ダイレクトティーチ」は溶接位置の微調整が難しく、TPに持ち替えて微調整することが必要となる。「レーザーセンサー+オフライン教示」も搭載するセンサーが高額なのに加え、使いこなすには高度な知識が必要となる。
ダイヘンの開発担当者は既存システムにはない「安価かつ使いやすい」を実現するために、市販タブレット端末とアプリを用いて、溶接プログラムを自動生成するアイデアを形にした。ただ開発当初は、LiDARで得られる精度は溶接に求められる精度を満たさないなど、課題もあった。
このため実用化に向けた問題点を、社内の溶接やロボットに関する熟練技術者とすり合わせることで解決した。いわば、柔軟な発想と同社が長年に亘り培った技術力・ノウハウが融合した形だ。
ロボ運用の脱技能化で導入障壁をなくす
中小企業のロボット導入意欲は高い。人手不足が深刻化する中で、生産性を高めるには自動化が欠かせない。日刊工業新聞が2月に行った「2022年中小企業ロボットアンケート」によると、中小企業の55%がロボットを導入済みで、9%が導入を検討中。導入企業および導入検討中企業の74%が22年度のロボット関連投資を増額または横ばいと答えた。ロボットを導入する理由としては「人手不足対応」と「業務の見直し・効率化」が約半数を占めた。
一方で45%の中小企業はロボットをまだ導入していない。その理由としては「費用対効果に見合わない」が最も多く、「ノウハウ不足」も上位となった。中小企業では多品種少量生産が多くを占めている。ロボットを活用するにしても、生産品目の数に比例してプログラム数、教示時間が増加する。多品種少量生産の現場では、ロボット導入で作業負担が軽減しても、教示作業の負担が増えてしまうことが課題となっている。また初めてロボットを導入する場合、ロボットの操作に長けた技術者が不在で、どう活用すればよいのか不安を持つ企業が多い。
ダイヘンは安価で使いやすい教示レスシステムの普及によって、中小企業におけるロボット導入障壁を取り除き、人手不足や生産効率化など現場が抱える課題解決に貢献する。
【タブレットによる教示レスシステムの紹介動画】
【記者の視点 自動生成の手軽さ、実演見て納得】
「展示会の目玉になる製品だ」。ダイヘンのFAロボット事業の役員から溶接ロボットの教示レスシステムの話を聞いたのは今年2月だった。3月の国際ロボット展に参考出品され反響を得たが、さらに改良を重ね9月に発売された。市販のタブレット端末を使い、カメラ撮影と一部操作で動作プログラムを自動生成できる手軽さは実演を見て納得した。
生産性を高めたい中小企業を対象に、産業用ロボットの導入機運は高まる。ロボットの操作性などに不安をもつ現場に、同システムがしっかり受け入れられるか、注視したい。
(大阪・広瀬友彦)
2022年12月14日付け日刊工業新聞4面 PDFダウンロード
株式会社ダイヘン
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【ダイヘンロボットサイト】https://www.daihen-robot.com/
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