(2023/9/15 05:00)
業績が改善していないのに、賃上げを実施した中小企業の割合が過半を占めている。慢性的な人手不足を受け、雇用の維持や人材確保のための「防衛的賃上げ」を余儀なくされている。13日に発足した第2次岸田再改造内閣は、構造的な賃上げなどでデフレ脱却を目指すとし、10月に新たな経済対策をまとめる。中小企業の賃上げ原資を増やす効果的な施策を講じ、防衛的賃上げの状況を改善したい。
東京商工会議所が13日発表した調査によると、2023年度に正社員の賃上げを実施した企業割合は58・3%だった。賃上げを実施した企業のうち、業績が「改善」している企業は43・9%にとどまり、「横ばい」(45・3%)と「悪化」(10・8%)の合計は56・1%と過半を占めた。業績改善の裏付けがない、厳しい賃上げの実態は早期に改善する必要がある。
中小企業は原材料やエネルギー価格の高騰、さらに実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の本格返済が始まり、収益を圧迫されている。日本商工会議所は新内閣に対し、価格転嫁の円滑化に向けた政府の監視強化や、IT・人工知能(AI)・ロボットを活用した生産性向上への支援などを求めている。
政府は6月に決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)や、経済産業省による2024年度税制改正要望などを経済対策に反映し、中小企業の構造的賃上げにつなげたい。
骨太の方針には、賃上げ分の価格転嫁の状況を業界ごとに実態調査し、業界団体に自主行動計画の改定・徹底を求めるとした。また経産省は、23年度末に期限を迎える賃上げ促進税制の延長・拡充のほか、赤字企業にも賃上げを促す「繰越控除制度」の創設を求めた。賃上げを実施した年度以降に業績が改善すれば、赤字で利用できなかった税額控除分を繰り越せる。
これらの支援に加え、中小企業は自己変革が必要だ。AIやデジタル変革(DX)による生産性向上や新価値創造など、中長期の視点で収益構造を強化したい。経済対策がその実現に向けた糸口になると期待したい。
(2023/9/15 05:00)