社説/“安いニッポン” 脱デフレへ賃上げ・日銀を注視

(2023/9/25 05:00)

半世紀前より日本は「安く」なっている。通貨の購買力を示す実質実効為替レート(2020年=100)が8月に73・19となり、1970年8月の過去最低を更新した。国際決済銀行(BIS)の調査で、1ドル=360円だった固定相場時代とほぼ同水準だ。海外に見劣りする賃金の上昇によるデフレ脱却、さらに貿易収支の黒字化により円の実力を引き上げたい。

実質実効為替レートは、貿易量や物価水準などから算出された通貨の購買力。同レートの低下は通貨の価値が減価したことを意味し、「円」は円安(ドル高)やデフレ(米国の物価上昇)で同レートが低下する。

同レートを低下させる円安は輸出の増加に有利に働く。だが日本企業は海外生産を増やし、円安効果は薄れている。むしろ円安は、輸入物価の上昇が実質賃金を低下させ、個人消費を冷やしかねないことに留意する必要がある。また経済協力開発機構(OECD)によると、2021年の世界の平均賃金で日本は34カ国中24位だった。北欧や韓国などよりも労働コストが安い。この賃金格差を埋めたい。

日本は約30年ぶりの高水準だった23年春闘や、初めて時給が1000円を超えた最低賃金の流れを継続する必要がある。学び直し(リスキリング)による人材の能力向上、日本型職務給の確立、成長分野への労働移動という、岸田文雄政権が掲げる三位一体の労働市場改革を着実に前に進めたい。23年度補正予算案や24年度当初予算案では野放図な歳出を戒めつつ、効果的な施策を講じてもらいたい。

足元の円安基調は日米金利差を反映している。経済堅調な米国はインフレ再燃を警戒し、高金利が長期化しかねない。行き過ぎた円安を是正するには、日銀による金融政策の正常化が求められる。植田和男総裁は7月にイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を修正し、許容する長期金利の上限を引き上げた。4―6月期の需給ギャップも15四半期ぶりにプラスに転じている。24年春闘を受け、23年度中にマイナス金利政策を解除するかを注視したい。

(2023/9/25 05:00)

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