(2023/10/25 12:00)
日本は先進国有数の森林保有国だ。しかし木材の自給率は約41%にとどまるという(林野庁)。国内の森林の多くが木材資源の調達を目的として植林された人工林であることに鑑みれば、少々違和感のある数字といえるだろう。この状況についてサプライチェーン・マネジメント(SCM)の観点から考察してみたい。
戦時中の過剰な木材需要によって日本の山林は荒廃し、木材の供給能力が低下した。現在の人工林は供給能力の回復を目的として終戦後に大量植林されたものだ。他の1次産品と同様、木が資源として利用可能になるには相応の時間を要する。その期間は40―50年。上記の木材自給率からうかがえるのは長い調達リードタイムを経ていざ伐採に適した状態に育った木が木材需要の充足に十分寄与していない状況だ。
SCMの世界では実需が適切に把握されない状況で生じる架空の需要=ファントムオーダーが過剰供給を引き起こす現象を「ブルウィップ効果」と呼ぶ。身近なところではコロナ禍の初期に起きた不織布マスクの欠品と、その後の供給過剰が記憶に新しい。いわゆる「パニック買い」などに誘発された過剰な供給活動が引き取り手のない在庫の山を生む現象である。国産材の状況は結果的にその典型例に見える。
また、国産材の供給が限られていた半世紀の間、建築材の供給を支えたのは輸入木材だ。同期間において国産材とは異なる特性を克服して使いこなすためにサプライチェーン(供給網)全体が輸入木材を前提としたものに変容した。これを再び国産材に適した形に戻す場合は新たな設備投資を伴う状況だ。いまや国産材は消費者需要のはるか手前、中間品の段階でサプライチェーンから脱落している可能性がある。
SCMは需給のバランスを取り、かつこれを維持することを目的とする。しかし、ひとたび大きく崩れた需給バランスを回復することは容易でない。調達・生産といった供給活動に先だって行うべきは需要の適切な把握であることに留意したい。
◇著者:MTIプロジェクト 『基礎から学べる!世界標準のSCM教本(日刊工業新聞)』の著者である山本圭一・水谷禎志・行本顕の3氏によって創設された世界標準のSCM普及推進プロジェクト。MTIは「水山行」のラテン語の頭文字。本連載はメンバーのうちASCMのSCMインストラクター資格を持つ行本顕が執筆を担当
(2023/10/25 12:00)
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