(2023/10/27 12:00)
日本の宇宙開発が加速している中で、大学発ベンチャーの数が年々増加している傾向にある。九州大学発の宇宙ベンチャーであるQPS研究所(福岡市中央区、大西俊輔社長)は、曇りや夜でも観測できる小型の合成開口レーダー(SAR)衛星を開発・製造している。九大の持つ小型人工衛星を作る技術を基に、リアルタイムで地球を観測するシステムを開発し、そのデータを提供するビジネスを展開している。
QPS研究所が開発を進める小型SAR衛星「QPS―SAR」は、従来のSAR衛星の20分の1となる10キログラムで開発費用は100分の1という軽量かつ低コストで作れる人工衛星。大型の展開式アンテナを搭載し、強い電波を出して高画質の画像を得られる仕組みだ。同社はQPS―SARを2025年以降に36機体制とする方針で、これまでに同衛星5機を打ち上げた。だが、QPS―SAR3号機と同4号機は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型固体燃料ロケット「イプシロン」6号機の打ち上げ失敗で軌道投入できなかった。6月には先に完成したQPS―SAR6号機を打ち上げ、現在は3機体制で運用している。23年度中にも5号機を打ち上げる予定で、複数の衛星を宇宙空間に配置する「衛星コンステレーション」を構築する。地球上の任意の場所を10分間隔で観測できる仕組みを作る。
QPS―SAR6号機にはJAXAと共同開発したSARのデータを軌道上で画像化する装置を搭載。約23秒というはやさで撮影データを宇宙空間で画像化できることを実証した。今回は衛星内に格納したSARデータを軌道上で画像化処理して、地上への送信データ量を生データ送信時の1000分の1以下のデータ量に圧縮。それによって地上でSAR画像を入手するまでの時間を短くできた。これまでは人工衛星が撮影したデータを地球に送ってから地上で画像処理していたため、顧客への画像提供が早まる可能性が高い。
また同6号機には米通信関連企業が開発した装置が搭載され、低軌道上の他の衛星と接続できデータ接続や転送が可能となった。QPS研究所の大西俊輔社長は「SAR画像データの運用を強化し、ユーザーの要求に迅速に対応できる。高品質の画像をタイムリーに世界に提供したい」と強調した。地球観測分野での新たなビジネスチャンスにつながると期待される。
宇宙をはじめとしたさまざまなベンチャーは資金を調達することがビジネスを存続する鍵となっている。QPS研究所は、10月に経済産業省が実施する中小企業やベンチャーを支援するSBIR制度に採択された。採択金額は41億円であり、小型光学衛星や小型SAR衛星の分解能を高めて広域化することで国際的な市場でトップシェアとなることを目指す。大西社長は「市場での地球観測データの活用は期待が大きい。SBIR制度の支援を受け、新たな成果を築きたい」と意気込む。
(2023/10/27 12:00)
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