関西学院大学、小型・低コストのFCV開発 電解質膜にアニオン交換膜

(2023/10/27 12:00)

  •     水加ヒドラジンを燃料としたアニオン交換形FCV「FC商CASE」

燃料電池車(FCV)の技術開発はカーボンニュートラル社会の実現に向けて不可欠なものとして注目されている。関西学院大学の田中裕久教授は燃料電池(FC)の電極触媒に白金を使わない、小型で低コストのFCV開発に注力してきた。現在の研究はFC空気極の触媒反応の解析から、FCVに最適な触媒の探求に時間をかける。田中教授と研究室の学生は「さまざまなFCVの可能性を提供していきたい」と語る。

一般的なFCVは水素を燃料とし、酸素と化学反応させて発電するプロトン交換形のFCが使われる。FC内の電解質膜は強酸性であることから、電極触媒には耐酸性を持つ白金が採用される。しかし、白金の使用はFCVの高コスト化の一因にもなっている。国は2025年までにFCVの普及台数20万台を掲げているが、普及には貴金属の使用低減に向けた技術開発を必要としている。

ダイハツ工業の技術者であった田中教授は「生活に身近な軽自動車の大きさで、コスト面でも実用的なFCVの開発」と研究コンセプトを説明する。貴金属を使わない非白金触媒とエネルギー密度の高い液体燃料を組み合わせたアニオン交換形FCスタックの開発に着手し、07年に基礎技術を確立。11年に全長3395ミリ、全幅1475ミリメートルのFCV「FC商CASE」を披露した。

電解質膜にアニオン交換膜を使用することでセル内をアルカリ性の環境にでき、白金に比べて安価なニッケルや鉄を電極触媒に使用できるようになる。その結果、FC全体の低コスト化につながる。

燃料は窒素と水素の化合物である水加ヒドラジンを採用した。排出するのは水と窒素だけと環境にも良い。水加ヒドラジンは濃度を60%以下まで希釈すれば常圧条件では引火しない特性があり、ポリタンクを使った保管・運搬が可能で、取り扱いが容易である。そのため、社会実装においてはガソリンスタンドなどの既存インフラを活用できる利点もある。水加ヒドラジンの毒性については「水素の管理と同等のインフラ対策で十分対応できる」(田中教授)と話す。

  • 田中教授と研究室の学生は触媒研究に挑んでいる

現在の研究はFCの空気極で使用する触媒に焦点を当てる。アニオン交換形FCの課題の一つに耐久性の低さがあり、自動車用FCとしての実用化には長寿命化が避けられない。

そこで、空気極での還元反応の過程で生まれる過酸化水素が高分子膜やセパレーターなどを痛めつけることに着目した。最近の実験ではプロトン交換形においても過酸化水素が生成されており、その生成過程を解明した。従来の白金触媒は酸素を水素と反応させた後に切り離すが「酸素解離の後に水素と反応させる触媒であれば、過酸化水素を生み出さずに還元反応を起こせることがわかった」(同)と話す。

今後は鉄窒素カーボン触媒の開発でFCの長寿命化に貢献する狙いだ。約50リットルの燃料タンク、航続距離500キロメートルを稼ぐ“軽自動車のFCV”の実用化を目標に掲げ、田中教授と学生たちの研究は続く。

(2023/10/27 12:00)

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