研究者への道に導いた『三四郎』 桐蔭横浜大学医用工学部教授・池上和志氏

(2023/10/27 12:00)

大学の実験室で光線の圧力を測定しようと試みる野々宮宗八。学問の世界に打ち込む彼への憧れは研究者を志すきっかけになった。高校3年生の夏に手にした夏目漱石著『三四郎』の登場人物だ。だから『三四郎』は今の仕事に自分を導いた一冊。同時に同世代だった主人公の小川三四郎らに共感した。その後の人生においてもふと彼らを思い出し、自分を重ねてきた。

例えば、次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池(PSC)」の生みの親である宮坂力桐蔭横浜大学特任教授が創業したペクセル・テクノロジーズ(川崎市麻生区)への入社が決まり、つくばから横浜に来た2005年。洗練された街並みや行き交う高級車を目にして「これから自分の生活スタイルを変えながら新しい挑戦を始めるのだ」と高揚した。しかし、その高揚は自分の行動に結びつかなかった。高級車を買うこともなく、スタイルは変わらなかった。

三四郎もまた、東京帝国大学(現東京大学)に入学するために上京し、近代化された東京の姿に衝撃を受けた。そして、華やかな街に合わせて自分を変えようとするが、変われないでいるように見える。そんな三四郎の姿を思い出し、肯定的に捉えて勇気付けられた。変わりたくても変われないのなら無理に肩肘を張る必要はなく、自分は自分の価値観や生き方のままでいいのだと。

ペクセルに入社してから18年、桐蔭横浜大にも職を得て仕えてきた宮坂特任教授は新しいことにどんどん挑戦し、自ら変わり続けている。足元ではPSCの事業化を目指す企業連携コンソーシアムを立ち上げた。そんな姿には憧れる。

ただ、変われない自分は突き進む宮坂特任教授に付き添い、ある時は変わり過ぎないようにブレーキをかけつつ自分らしく調整役を担う。むしろそれでバランスがよいのだと、三四郎に勇気付けられながら考えている。

(2023/10/27 12:00)

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