社説/労務費の「価格転嫁」指針 脱デフレへ発注側は全面協力を

(2023/12/1 05:00)

公正取引委員会は、中小企業の賃上げ分を取引価格に上乗せする「価格転嫁」を促す指針を公表した。発注企業と受注企業に求められる12の行動指針を提示。公正な競争を阻害する恐れがある場合は、独占禁止法などに基づき、厳正に対処するとした。円滑な価格転嫁を実現し、中小企業が賃上げに動きやすい環境が整うと期待したい。

他方、中小企業は生産性向上による賃上げ原資の確保や、新たな価値創出により価格交渉力を高めることも求められる。

公取委は発注企業に対し、価格転嫁の判断を現場でなく経営トップに求めたほか、発注企業からの定期的な協議の開催、サプライチェーン(供給網)全体での適正な価格転嫁などを提示した。発注企業はこれらを順守し、転嫁に応じてもらいたい。

受注企業には、全国の商工会議所などの相談窓口の活用や、価格転嫁交渉時に提示する資料は最低賃金や春闘妥結額などの公表資料を用いるよう求めるなど事務負担にも配慮。受注企業からも希望する価格を発注企業に提示することも求めており、適正な取引実現を目指したい。

経済産業省・中小企業庁が実施した価格転嫁に関する9月調査では、コスト全体の価格転嫁率は45・7%と5割を割った。中でも労務費の転嫁率が36・7%と低く、原材料費より転嫁されていない現状が示された。

中小企業は人材確保とつなぎ留めを目的に、やむを得ず「防衛的賃上げ」を行っている。だが、おのずと限界がある。労務費の価格転嫁は喫緊の課題であり、2024年春闘を控えての公取委の指針は適切な対応と評価できる。中小企業は、政府が総合経済対策で講じる省人化投資への補助金なども活用し、人材不足への対応力を高めたい。

全従業員数の7割を占める中小企業の動向が24年春闘を大きく左右する。日本経済はデフレ脱却への正念場を迎え、岸田文雄政権は23年春闘以上の賃上げを実現して経済の好循環を回したい意向を示す。経団連も価格転嫁の重要性を共有しており、公取委の指針が実効性あるものとして機能すると期待したい。

(2023/12/1 05:00)

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