(2023/12/20 05:00)
日本製鉄は、米鉄鋼大手のUSスチールを約2兆円で買収する。日鉄として過去最大の買収案件で、日米鉄鋼業の大型再編となる。有望市場の米国を開拓することで、インドや東南アジアを含むグローバル戦略で国際競争力が強化されると期待したい。USスチールは最先端の電炉技術を持つ。日鉄の技術力との融合で脱炭素を加速し、世界の鉄鋼業をリードしてほしい。
日鉄はUSスチールの全株式を取得し、完全子会社とする予定だ。2024年3月ごろのUSスチールの株主総会や関係当局の許認可を経て買収する。粗鋼生産能力で世界4位(22年)の日鉄が27位のUSスチールを買収すれば世界3位に躍り出る。
日鉄は19年に欧州アルセロール・ミタルと共同でインドの鉄鋼大手を買収し、22年にはタイの電炉大手も買収するなどグローバル戦略を推進している。成長が著しいインドや東南アジアに続く三つ目の重要拠点に米国を位置付けた形になる。
米国は今後も人口増が見込まれ、バイデン政権が目指す電気自動車(EV)の普及も後押しして鉄鋼需要の拡大が想定される。EVモーターに必要な電磁鋼板などは日鉄が高い技術力を持っており、最大の高級鋼板の需要国・米国で自社の技術を生かせると判断したようだ。三つのグローバル拠点の拡充により目標である世界での粗鋼生産能力1億トンを実現し、企業価値の一段の向上を図ってほしい。
日鉄は国際競争力の強化と同時に、脱炭素の推進も期待される。日本の産業全体で排出する二酸化炭素(CO2)のうち、35%程度が鉄鋼業界とされる。USスチールは最先端の電炉技術を持ち、電炉は高炉よりCO2排出量を大幅に削減できる。日鉄の脱炭素技術と融合し、気候変動対策の歩みも進めたい。
他方、USスチールが保有する鉄鉱石鉱山の権益を手にすることは、経済安全保障を確保する上で大きな意味があろう。
日本の高炉各社は国内市場縮小を受け、過剰設備を整理してきた。日鉄は海外事業の強化と同時に脱炭素技術も研ぎ澄ませ、世界で存在感を高めたい。
(2023/12/20 05:00)