(2024/8/23 12:00)
守りたい人、毎日の「対話」に工夫
―執筆の動機は。
「出版社からの提案がきっかけ。『新入社員は78歳』というタイトルも出版社が考えたものだ。60代、70代の社員が何人もいる当社からすれば普通のことで、読者の興味を引くのか少々疑問だったが、刊行後はたくさんの反響があり、講演の依頼などもいただいた。ありがたく思っている」
―人手不足が深刻化する中、シニア層の就業機会拡大は社会的なテーマです。
「大企業でも定年後の再雇用では待遇を大きく下げるケースが多いと聞く。別の会社に再就職しようとしても面接すら断られてしまうという。できるだけ若年者を採用したいという考え方は中小企業の間でも根強い。だが、これだけ転職市場が活況を呈する中、苦労して若者を採用してもすぐに辞めてしまうかもしれない。何年働くか分からないという点では若年者も高齢者も変わらない。それならばスキルを持ち、即戦力になる高齢者を雇った方が“お得”だと思う」
―高齢者雇用には健康面などでリスクがありませんか。
「当社の人材採用は年齢や性別、国籍は一切不問。私自身が『この人と働きたい』と思えるかどうかで決めている。社長の仕事は社員を守ること。だから守りたい人を選んでいる。高齢者が面接に来た時は持病の有無や働き方の希望は必ず聞くが、採用そのものにリスクは感じない。採用されたことに感謝の念を持ち、楽しく働いてくれる。それに高齢者の方は基本的に教えたがりだ。聞けば何でも教えてくれる。中には私も『先生』だと思って接している社員もいる」
―本書ではタイトルの元になった、78歳で入社して94歳まで現役を貫いた社員のエピソードが印象的です。
「平久守さんというその社員は、亡くなる2日前まで仕事をしてくれた。彼が愛用していた金槌(かなづち)はケースに入れて社内の玄関に飾っている。社員との関係は亡くなったらそれで終わりではないし、やはり忘れたくない」
―人を大切にする経営を強調しています。
「例えば高齢者が働きやすい職場環境作りにしても、一つひとつの工夫はたいしたことはない。階段に手すりを付けるとか、かがまなくても済むようコンセントの位置を変えるとか。そんな細かいことでも意外なほど社員は喜んでくれる。ただ社員に改善案を聞いてもなかなか上がってこない。社長自身が動く必要がある」
―経営者の思いを社員にうまく伝えるコツはありますか。
「社員は社長の分身であり、私がやりたいことを代わって実行してくれる存在。だが当然、人格は別だ。話すだけでは意味の取り違えもある。毎日全員に会えるわけでもない。そこで対話アプリケーション『LINE』を使い、全従業員が見られる形でメッセージを毎日書いている。自分が考えていること、会社の未来像など、頭の中を正直に文字化して伝えている。ときには叱責(しっせき)のメッセージもある。これを私は3年半続けている。すごく良い効果が生まれるが、毎日続けることを考えると、始めるには勇気が必要かもしれない」
(2024/8/23 12:00)
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