(2024/9/24 00:00)
理研計器のリアルタイムガスモニタリングシステム(RTGMS)は世界的なカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の追い風を受ける。1939年設立からの「祖業技術」を磨き上げ、二酸化炭素(CO2)と水素からメタンを合成する「メタネーション」など次世代技術の社会実装を後押ししている。発電所や製鉄所、化学プラントなど基幹産業の脱炭素につながり、日本の持続可能性と経済成長の両立に貢献する。
理研計器は理化学研究所から独立し、光学式ガス検定器などの製造・販売を始めた。創業当時の日本は石炭産業最盛期であり、石炭は最大のエネルギー源だった。ただ、炭鉱内で発生するメタンガスが悩みの種であり、労働者は揮発油安全灯(カンテラ)を持参して炎の長さからガス濃度を推測し、過酷な作業に日々従事していた。
営業推進部副部長兼市場戦略課長の寺本考平氏は「エネルギー需要が伸びて石炭を活発に掘り、日本にオイルタンカーがたくさん来るようになった。過酷な現場で爆発事故が多発した」と産業史を振り返る。
決定的な出来事として、1938年に北海道炭坑汽船・夕張鉱業所でカンテラを原因とする大爆発事故が発生し、死者182人を出したという。そこで社会的により安全なガス検定器のニーズが急速に高まり、理研計器が産声を上げた。
その後の日本経済の発展とともに、各種ガスを扱う石油精製・石油化学や建設、鉄鋼、海運などあらゆる業種にビジネスを広げ、最近は世界的に活況な半導体などエレクトロニクス向けで存在感を強めている。
同社が現在保有するセンサーは600-700種類に上る。これは顧客の要望に長年応えてきた結果の貴重な財産であり、今回のRTGMSも同様に現場の「お困りごと」に着想を得て生まれた新規事業だ。
「昔から温めてきたセンサー技術は最初、ガス検知・警報分野で安全目的に使っていたが、ガスをセンシングしてその結果を基に装置をリアルタイムで動かすニーズが出てきた」と寺本氏はRTGMSの出発点を明かす。
システムで中心的な役割を担うのが防爆型熱量計だ。祖業技術の光学式(光波干渉式)センサーで天然ガスなどの混合ガスの屈折率を、音速センサーで密度を測定し、独自技術「オプトソニック演算」を用いて熱量を持つガスと熱量を持たないガスとを切り分けて監視できる。システムは主に熱量計とPLC(プログラマブルコントローラー)で構成する。
2022年の提供開始以来、約15件の採用実績がある。メタネーションやアンモニア合成・分解、水素混焼発電向けが大半を占める。メタネーションは再生可能エネルギー由来の水素と、CO2をメタネーション装置で触媒反応させて合成メタンをつくり出す次世代技術だ。
国内各地でエネルギー事業者などによる実証実験が進行中だ。RTGMSを使って合成メタンをCO2と水素、メタンそれぞれの濃度を同時測定し、その後に天然ガスと混ぜる際の装置制御などにつなげる用途でよく使われているという。
RTGMSにできることはガスクロマトグラフでもできる。ただ、存在するガスやおおよその混合比が判明している社会実装フェーズではRTGMSに強みがある。というのも、実証段階では存在するガスやその混合比がよくわかっていないため、ガスクロによる分析が必要な場合は確かにあるものの、社会実装となれば、大体の予想はすでについているはずだ。そのため、もともと研究室向けでなく、現場で使用される熱量計がベースになっているRTGMSは、防爆構造で、保護等級P66/67相当と高いレベルであり、現場への親和性が高い。さらに、高速応答で制御に適していることなどもRTGMSの強みと言える。ガスクロの補助や装置の制御という面でも役立つと期待される。
今後はRTGMSの海外展開も加速したい考えだ。「いまは国内が多いけれど、海外へ広げていくためにプロモーションをかけている最中だ。反応は良好だ」と寺本氏は話す。なかでも、エネルギー危機にひんする欧州は有望な市場だ。
欧州は2022年にウクライナに侵攻したロシアからの天然ガス供給パイプラインが停止。域内の電力価格などが軒並み高騰し、製造業中心に大きな打撃を現在進行形で受けている。もともと再生可能エネルギー導入に積極的な欧州だが、従来の気候変動対策に加えて眼前のエネルギー危機を克服すべく水素にその命運を賭す。
寺本氏は「海外でも天然ガスの次の次のエネルギーとして水素は考えられている。地球温暖化だけでなく、天然ガス依存からのリスク分散という観点も重要になるはずだ」と海外での需要増に期待を膨らます。
世界中で動き始めた脱炭素化の新潮流を捉えて、ガス検知器大手が打ち出す新たなビジネスモデルの行方に注目だ。
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(2024/9/24 00:00)