(2024/9/9 17:00)
ベストオーナーの視点重視
総合化学メーカーによる医薬事業の位置付けが変化しつつある。三菱ケミカルグループ子会社の田辺三菱製薬、住友化学子会社の住友ファーマは希望退職者を募る一方、旭化成はスウェーデン製薬会社カリディタスのTOB(株式公開買い付け)が成立した。事業安定性が特徴の医薬で海外市場開拓の必要性が高まるほか、ベストオーナーの視点がより重要になる中で、化学と医薬とのシナジーをどう捉えるかも注目される。
田辺三菱は人数を定めない希望退職者の募集を、住友ファーマは国内社員を対象とした早期退職者の募集を、それぞれ7月に発表した。三菱ケミカルグループの辻村明広執行役エグゼクティブバイスプレジデント(田辺三菱代表取締役)は「成長の方向性を考えた時に収益が安定する状況の中でこうした施策を打つのが適切と考えた」と説明する。
住友ファーマは米国での抗精神病薬「ラツーダ」の特許切れで業績が大きく悪化。北米事業の構造改革などを経て、国内でも合理化策を示した格好だ。
一方、旭化成は腎疾患治療薬「タルペーヨ」を持つカリディタスの買収を通じて腎疾患領域を拡充し、収益力をより高める構えだ。M&A(合併・買収)を含めて北米での医薬品事業を強化する。
SMBC日興証券の宮本剛シニアアナリストは、総合化学メーカーが医薬品事業を持つ理由について「もともと石油化学事業の変動性の高さを懸念し、医薬品は安定性や成長性も高いと考えて投資をしてきた」と説明。ただ近年は「国内の薬価改定をはじめ外部環境の厳しさが表れ、国内市場で成長は難しく、米国など海外市場を成長ドライバーと捉えている」と分析する。
実際に総合化学の医薬各社は海外市場の深耕に注力している。田辺三菱は筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「ラジカヴァ」が米国で伸びていることなどを踏まえ、北米を中心とした成長市場の事業をより強化する考え。住友ファーマも前立腺がん治療薬をはじめとする基幹3製品の北米での販売拡大などを推進する。
また一連の事業環境の変化や、中長期的な各社の成長を見据えた際、「5―10年前に比べてベストオーナーの視点が重要視されてきている」(SMBC日興証券の宮本シニアアナリスト)面も注目だ。
三菱ケミカルグループの筑本学社長は6月の株主総会で、ファーマ(医薬)事業を含めた今後の方向性について「あらゆる選択肢を常に見ていく」と述べた。全ての事業を対象に、グループ全体の事業ポートフォリオのあるべき姿を継続的に検討する。ファーマ事業推進に当たって三菱ケミカルグループの多様なリソースの活用は強みになり得るが、シナジーが十分に発揮できないという判断になった場合は田辺三菱の売却が選択肢として浮上する可能性も考えられる。
住友化学と住友ファーマは、中長期的な成長領域に据える再生・細胞医薬に関して治療薬や開発製造受託(CDMO)でのシナジー創出を目指す動きもある。化学と医薬がそれぞれの強みを生かし、どう持続可能な成長につなげられるのかが、より問われている。
(2024/9/9 17:00)
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