(2024/11/15 12:00)
地域に新たな産業を呼び込もうと、成長市場である航空宇宙産業に着目する例は枚挙にいとまがない。一括受注、一貫生産を目指す企業同士のネットワークや産学官連携体など「航空機クラスター」が各地に形成。競争が激化する中では、勝ち残りに“存在感”を示さなければならない。島根・安来の共同受注組織「SUSANOO(スサノオ)」は地場産業の特色を生かして差別化を狙っている。
スサノオは2013年に、航空機エンジンなどの試験評価を手がけるキグチテクニクス(島根県安来市)を中心に設立した。インコネルやチタン合金など難削材の加工について「手のひらサイズから電信柱まで」(山根不二夫事務局長)できる体制が特徴だ。事務局が顧客からの問い合わせに対応し、参加各社が保有する技術や設備に応じて最適な担当企業との間を取り持つ。
島根県最東部に位置する安来は、古くからの「たたら製鉄」で鉄を作ってきた地域だ。今も日本刀や和包丁の素材として、昔ながらの製法を引き継ぐ「玉鋼」が作られている。
その伝統を受け継いだプロテリアル(旧日立金属)の企業城下町であり、近隣に協力会社が多く集積する。同社の特殊鋼「ヤスキハガネ」は切削工具や自動車部品などに欠かせない。協力会社は加工や評価の技術で素材メーカーを支えてきた。
地域が航空機産業に目を付けたのも、日立金属が航空機向けに、ヤスキハガネの用途開拓に乗り出したことがきっかけだ。11年設置の産学官組織「島根特殊鋼関連産業振興協議会」を経て、キグチテクニクスの木口重樹会長(当時社長)が「中小も打って出よう」と仲間に呼びかけた。
コロナ禍を経て現在の参加企業は、同社と精密機械加工の秦精工(安来市)、小径精密切削部品加工のファデコ(同)、大径・長尺品機械加工のMAKATA(松江市)の計4社。「本気でやっていきたいところだけ残った」(山根事務局長)と結束力を誇る。
発足から10年が過ぎて参加企業は、次々に代替わりした。支援してきた行政からは“自走化”が求められている。今後の活動を見据えてグループのシンボルを作ろうと、島根大学とともに独自のジェットエンジン開発に取り組んだ。各社が部品を分担して当地の素材を用いて製作し、自立運転に成功した。
他地域の航空機クラスターと比べた時、スサノオが優位性を発揮できるのは特殊鋼メーカーと密接な関係にあり「素材から一貫で対応できる」(山根事務局長)点だ。長期プロジェクトとなる航空機では、既存のサプライチェーン(供給網)に割り入るということは難しい。一方、長尺・大型品から小型品まで難削材の加工技術と世界水準の評価体制の組み合わせで、試作品のニーズに短納期で応じることは可能だ。
参加各社は受注に先行して生産や試験の設備を充実させてきた。技術の研さんはもとより、積極的な情報の収集・発信を通じて受注獲得を目指していく。
(2024/11/15 12:00)
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