(2023/6/30 00:00)
製造業では労働人口の減少で若年層を中心に担い手が不足する一方、現場を支える熟練技能者の高齢化が進み、人材をめぐる課題が深刻化している。
一方、金属加工などの工場では、人や紙をベースにした工程管理が浸透。情報の共有が一部に留まり、工場全体の状況の把握を難しくしている。中でも板金加工では、板材から複数の加工対象物(ワーク)を切り出し、それぞれ別の部品に加工するため、ワークと工程の管理が複雑になり、人の記憶に依存しながら運営する場面も多いと言われる。
アマダはこうした工程管理の流れをデジタル技術で把握する、製造DXソリューションの一つとして加工現場支援ソフトウエア「LIVLOTS(リブロッツ)」を開発した。
事務所・プログラム室・製造現場のあらゆる情報をデジタルデータとして共有
例えば、板金で箱形の部品を加工する場合、切断加工機で板材からワークを切り出し、曲げ加工機や溶接機などでワークの形を整え、人がバリ取りなどの仕上げをするといった複数の加工工程を経て目的の部品を生産している。
LIVLOTSでは受注した部品ごとに、切断や曲げといった各加工機や、バリ取りなどの人手による作業単位で、工程の進捗(しんちょく)を管理するアプリケーション(応用ソフト)「JOB(ジョブ管理)」を構築。専用のプラットフォームで横軸に部品、縦軸に切断や溶接などの加工や作業工程を配置し、部品ごとに加工から納品までの流れを一括して表示する。
LIVLOTSではまず、上位に当たる生産管理システムから、受注した部品の図面、納期、個数などを含む製作手配情報を受け取る。今まではプログラム室ではその図面を読み取り、工場でどのような加工機を使い部品を仕上げるかを判断し、レーザ加工機などの加工プログラムを作成していた。
LIVLOTSはアマダの新しいCAD・CAM「VPSS 4ie」や、NC装置「AMNC 4ie」と連携。プログラム室では、ジョブ管理アプリで切断、曲げ、溶接などの加工機1台ごとに既に指示を出した作業リストを見られるため、忙しさに応じて作業指示を出すことができる。実際に加工に着手してから完了するまでの情報は、同アプリを通じて部品ごとに自動登録され、正確な加工時間を記録できる。
一方、バリ取りや仕上げといった手作業工程では、現場に配布したタブレット情報端末に作業指示を送る。現場では同端末で作業の開始と完了をワンタッチで操作でき、加工機工程と同様の作業管理を実現。専用プラットフォームでは、部品ごとに加工機や手作業工程の進捗と作業予定を把握できる。
現場では同じ部品でも3日以内に仕上げる作業と、急な受注で当日仕上げの作業が発生する場合がある。同社ソフト技術開発部門 生産管理技術開発部 LIVLOTS開発の岩井義樹グループリーダーは「状況に応じて3日以内に仕上げる作業を当日に前倒しし、加工の段取り作業を減らすといった使い方もできる」と解説する。
業務効率化を可能にし、働き方改革につなげる
LIVLOTSでは切断加工後の仕分け作業を効率化するアプリ「PLACE(所在管理)」も開発。同アプリではレーザ加工機などの操作端末に、板材から切り分けたワークを色分けして表示する。さらにワークごとに部品の種類と曲げ加工などの次の工程も表示。作業者はそれぞれの工程に向かうパレットや台車にワークを仕分けし、ワークとパレットをひも付けて登録できる。
これまで板金加工工程では、人手によるワークの仕分け作業をデジタル情報として管理するのが難しかった。所在管理アプリでは、切断加工後のバリ取りや曲げといった次の作業工程との間で、仕掛かり在庫となっているワークの数と保管場所も記録できるようにした。また同アプリでは、切断加工後の板材の在庫数と所在も登録して管理でき、歩留まりの改善などにも活用できる。
工場全体の状況を俯瞰した視点で把握できるアプリ「VIEW(工場モニター)」も開発した。工場のレイアウト図面を取り込み、3次元(3D)画像上で加工機や手作業工程の稼働状況をリアルタイムに把握。ジョブ管理アプリのプラットフォームと連携し、部品ごとに作業の進捗を確認できる。
予定より遅れている部品はアラートが表示され、各工程の作業リストから余裕のある加工機を見つけ、当日納期の部品を優先的に仕上げるといった作業計画の組み替えなどにも活用できる。同社ソフトFA販売部の三島英義部長は作業が滞留している工程なども分かるため、「働き方改革にも役立てることができる」と見る。
現場の作業支援では図面や写真を一元管理するアプリ「DOCUMENT(図面管理)」も構築。バリ取りや検査などの手作業工程でワークをタブレットで撮影し、作業時の注意点を書き込んだ画像を残すことができる。
検査記録を工程ごとに管理するアプリ「CHECK(検査記録)」では、タブレット上で読み込んだ図面に検査結果を直接書き込めるようにした。顧客から指定された検査報告書やチェックリストを取り込み、タブレットで入力しながら報告書も作成できる。
環境を意識したモノづくりにも貢献
また部品ごとに製造時の二酸化炭素(CO2)排出量を算出し、納品書と同時に提供する機能も導入。サプライチェーン(供給網)全体で二酸化炭素(CO2)排出量を削減する意識が高まっており、岩井グループリーダーは「環境を意識したモノづくりにも貢献できる」と自信を示す。
(2023/6/30 00:00)