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ポンプと関連製品 高出力の推進装置として

(2019/2/19 05:00)

業界展望台

早稲田大学理工学術院 基幹理工学部 教授 宮川 和芳

種子島の青い空に、ごう音を上げて吸い込まれていくロケットをテレビなどで見て感動された経験がある方は多いだろう。また韓国・釜山港と福岡・博多港をわずか3時間で結ぶ船は、飛行機のごとく翼の揚力で浮上しながら高速に海上を疾走する。この一見関係のない二つの乗り物には共通点がある。どちらも小型で高出力のポンプを推進機に用いていることである。ここではポンプが主役なのに、ポンプが使われていることすらわからない推進装置について紹介する。

ロケットエンジン

現在、各種人工衛星などを打ち上げているのは、H2A、H2Bと称する日本の基幹ロケットである。

このロケットは日本の官民が協力して開発した国産であり、H2Aロケットの打ち上げ成功率は97.5%(40回中39回)。出力を増大するためにLE-7Aエンジンを二基搭載したH2Bロケットの打ち上げ成功率は100%(7回)と、2005年から41回連続して打ち上げ成功で、非常に高い信頼性を誇っている。

図1にH2Aロケットの断面図を示す。ロケットの全長は53メートルであり、上段、下段の2段のロケットには、それぞれ液体水素、液体酸素のタンクとエンジンがある。下段のロケットエンジンにはLE-7A、上段のエンジンはLE-5Bという高性能な国内で開発をされたエンジンが使われている。この各エンジンに液体酸素ターボポンプ(OTP=Oxidizer Turbo Pump)、液体水素ターボポンプ(FTP=Fuel Turbo Pump)という2台の高出力ポンプが使われている。

  • 図1 H2Aロケット外観(JAXA提供)

図2にLE-7Aエンジンと液体水素ターボポンプの図を示す。特に下段のLE-7Aエンジンに使用されているターボポンプは、エネルギー密度が他のポンプに比べてずばぬけて大きい。

  • 図2 LE-7Aエンジンと水素用ターボポンプ(JAXA提供)

図3にロケットターボポンプと他の推進機とのエネルギーレベルの比較を示す。このポンプのすごいところは、机に乗せることができるくらいの大きさで、極めて大きな出力を出すところである。例えば、流量は毎秒ドラム缶2.5本分、圧力は富士山の約10倍までの水を押し上げる力があり、大型航空機に用いられるジェットエンジンの10基以上の推力(単位重量当たり)がある。作動する時間は他の機械に比べて圧倒的に短いが、単位重量当たりの出力は比べものにならないくらいに大きい。

  • 図3 各種エンジンの単位重量当たりの出力比較(内海政春室蘭工業大学教授提供)

このポンプの回転数は毎分4万回転以上、また前述したとおりの高い圧力、大きな流量で、まさに極限機械の一つである。ロケットエンジンの最も核になる機械であるため、何かの不適合があるとロケットは正常な軌道で打ち上がらない。

1999年11月15日に気象衛星「ひまわり」の後継機である衛星を搭載したH2ロケット8号機が打ち上げられたが、1段目エンジンが突然停止し打ち上げは失敗した。この事故はLE―7エンジンの液体水素ターボポンプに生じた蒸気の気泡群(キャビテーション)による遠心ポンプの前段にあるインデューサベーンの励振や、ポンプ入口側への逆流と配管曲がりにある整流ベーンへの励振力などの複合要因により高サイクル疲労の結果生じたとされている。数ミクロンの微細な気泡が大きなロケットを落としてしまった。

この事故以降、羽根車周りのキャビテーション気泡の動的挙動の研究が大きく進み、後継の高い信頼性を誇るLE-7Aエンジンの開発に反映された。その後のH2Aロケットの打ち上げ成功は前述のとおりである。

ウオータージェットポンプ

海上を約時速80キロメートルで疾走する船の推進機に使われているのは、ウオータージェットポンプである。図4に船の中のウオータージェットポンプの構造図を示す。ポンプを用いて船底のインテークと言われる部分から大量の水を吸い込み、船尾のノズルから水を空中に高速で噴出することによる運動量交換で推進する。ポンプは流量が多く高い回転速度に向いている軸流か斜流ポンプが使われている。

  • 図4 ウオータージェットポンプ断面図(ヤマハ発動機提供)

また原動機には、ガスタービンやディーゼル・ガソリンエンジンが使用される場合が多い。このポンプも通常のポンプと同じようにキャビテーションによる吸い込み性能は重要な性能のパラメーターであるが、プロペラ推進船とは逆に船が高速に推進するほどにインテークへの吸い込み圧(ラム圧)が高くなり、キャビテーションの初生、成長の問題はなくなってしまう。

通常の舶用プロペラと比較すると、低速時にはプロペラの方が効率が高いが、時速50キロメートル位からの高速域ではウオータージェットポンプの方が高い効率となる。吸い込み形状は2種類あり、フラッシュ型という船底に穴を開けたタイプと、ポッド型という船底から吸い込み口を突き出した形のものがある。船底に突き出しがない分、フラッシュ型ではリップと呼ばれる吸い込み口の部分に高速時にキャビテーションが生じ、ひどい時にはエロージョンが生じてしまうため、リップ形状は非常に重要である。

前述のようにウオータージェットポンプは高速域で有利な推進機であるため、大量の旅客や貨物を積載し、離島間を短時間で結ぶウオータージェット船の開発プロジェクト(TSL=テクノスーパーライナー)が1989年に当時の運輸省と7造船会社により始まった。

その後、2隻の実験船と1隻の実用船が開発された。実用船は2005年春に東京と小笠原諸島の航路に使われ、従来の片道26時間が約16時間に短縮される計画であった。しかしながら燃料の原油価格の高騰などにより計画は、その後、中断された。この国家プロジェクトの成果は定期航路としては実現しなかったが、ウオータージェット船は現在でも釜山―博多、隠岐―鳥取境港、鹿児島―種子島、新潟-佐渡間などの高速旅客船に使用されている。その他、防衛省の自衛艦や海上保安庁の高速船にも多くこの推進機が使われているほか、モーターボートや水上オートバイにも使用されていて、ユーザーはその加速とスピードを楽しんでいる。

ロケット用ターボポンプ、ウオータージェットポンプとも非常に高負荷、高回転数のポンプであり、ポンプ羽根車や静止流路の流体性能の向上はもちろんのこと、軸の動特性に関わるローターダイナミクスや材料、構造、制御、軸受、シールなど各要素の高度化が必要である。これらの設計、開発が民生用のポンプに使われることにより、ポンプ全体の技術の底上げにもなる。ポンプの基幹技術を基に、カスタマイズすることにより大型ポンプの性能、信頼性向上につながる。

(2019/2/19 05:00)

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