- トップ
- 中小企業優秀新技術・新製品賞
- 記事詳細
(2022/5/23 05:00)
りそな中小企業振興財団と日刊工業新聞社は4月22日、東京・大手町の経団連会館で「第34回中小企業優秀新技術・新製品賞」(経済産業省中小企業庁、中小企業基盤整備機構後援)の贈賞式を開いた。コロナ禍の長期化にもかかわらず、298件の応募があり、厳正な審査の結果、38件が受賞した。受賞企業4社の代表に、受賞製品の特徴や今後の事業展開、人材育成などを語ってもらった。
【出席者】
建ロボテック(香川県三木町)代表取締役CEO 眞部達也氏
伊東電機(兵庫県加西市)取締役常務執行役員 営業本部長 岡田展明氏
奥野製薬工業(大阪市鶴見区)執行役員 管理本部長 奥野直希氏
ラピュタロボティクス(東京都江東区)代表取締役CEO モーハナラージャ・ガジャン氏
《司会》 日刊工業新聞社社長 井水治博
眞部
ロボットメーカーみたいな社名ですが、建設現場に省力化サービスを提供する会社です。私自身、鉄筋工事の現場で働いていた元職人で、休みが少ない割に低賃金と、若い人が明るい未来を描くことができない建設現場を変革したいと設立しました。当初は私を含め2人だけでした。ところが「世界一ひとにやさしい現場を創る」というビジョンに共感して全国から頭脳が集まり、今は14人になりました。
受賞した協働型鉄筋結束ロボット「トモロボ」は、鉄筋を結束する電動工具を人の代わりに使うロボットです。250万円程度と低価格を追求した結果、エンジニアが考えてくれたさまざまなアイデアをそぎ落とし、本当に必要なコアの部分だけをプロダクトにしました。建設現場にある微小な誤差を吸収して自走できるほか、手袋をはめたままでも動かせるなど、現場の実情に即して開発したのが一番の強みです。
井水
現場で感じたこと、その思いをそのまま起業に結び付けて挑戦されました。高速仕分け可能に
岡田
兵庫県加西市で大手家電メーカーの下請けとしてモーターの修理業を始め、創業76年目になります。主力製品はモーターローラーの「パワーモーラ」です。大型配送センターで大量に稼働しているローラーコンベヤーの駆動系を開発・製造しています。ただ開発当初はなかなか売れませんでした。しかし米国郵便公社(USPS)の自動仕分け装置として採用され、大手ネット通販会社などがそのシステムを参考に採用し始めたのを契機に販売が世界に広がりました。今では米国、欧州、中国に工場を展開しています。OEM(相手先ブランドによる生産)でも供給し、ローラーコンベヤー部品の世界シェア5-6割を握っています。
マルチアングル移載装置「ボールソーター」は、パワーモーラを駆動源に複数の球状のローラーで構成され、搬送物を左右・斜め・直進と仕分けます。高まるネット通販需要に伴う小口配送の増加、高速配送ニーズへ対応するため、さまざまな搬送物を高速で仕分ける装置を開発しました。受賞製品は毎時6000ケース、小物なら同1万ケースの高速仕分けを可能にしました。
井水
世界中の大手ネット通販の物流センターに採用されているそうですね。脱六価クロムへ
奥野
創業は1905年で、今年で117年目です。日本で初めてベーキングパウダーの国産化に成功し、戦後に表面処理薬品、ガラス材料の開発を始めました。新規樹脂めっき「トップゼクロムPLUS」は、環境負荷物質のクロム酸や高価なパラジウムを使わず、大幅な工程削減が可能となるプロセスです。昔から六価クロムは発がん性があり土壌を汚染する化学物質といわれていますが、代替技術を見つけられませんでした。主に使われる分野が自動車部品で、安全性や信頼性が求められたのも一因です。
当社は単なる代替技術でなく、プラスアルファのイノベーションを創出することが化学メーカーの使命と考え、ようやく実現しました。すでに自動車部品メーカーがこのプロセスを使った量産ラインを2月に稼働しています。
井水
常に新しい付加価値を意識した開発力で、不可能を可能にしました。人とロボ協調
ガジャン
私はスリランカ出身で、高校卒業時にASIMO(ホンダ製ロボット)が公開され、それに憧れて日本の大学に入り、起業しました。まずはドローンを手がけ、物流分野に方向転換しました。物流で生産性のない作業は「歩く」ことです。特に倉庫内で作業スタッフがカートを押しながら小物をピッキングする作業は、1日一人20キロメートルぐらい歩きます。ピッキングアシストロボット「ラピュタPA-AMR」は、運ぶのはロボット、商品のピッキングは人と作業を完全に分け、歩く距離を大幅に短くしたのが特徴です。
作業スタッフのもとにロボットが走ってきて、取る棚の前に立って「この商品を入れてください」と指示します。人が商品を取ってコンテナへ入れたら「次はここに行ってください。僕の友達が来ます」と言って、人が歩く距離を減らそうとします。作業スタッフ1人に対して2、3台のロボットがつくと、倍の効率が出せます。
人をピッキングに専念させたのは、自動化が難しいからです。搬送は容易なので、そちらを先行しました。
井水
人とロボットが協調して働く点がユニークですね。それでは次に、今後の事業展開をどう考えているかお聞きします。海外展開に確信
眞部
先進国の大半は新興国からワーカーを受け入れており、コロナ禍で単純労働力が不足している。そこでまずシンガポールに拠点を出し、あとは米国を考えています。ただ、世界の人々がどんな場所で仕事をしているか、当社のロボットがどれだけ仕事をしたかという二つの情報を集めないと、開発も的外れになってしまうと考えています。
ドバイの会社と交渉した際、「ワーカーのインド人の人件費は日本人の3分の1。だからロボット価格を下げてほしい」と言われました。そこで「日本人は1日6500~8000カ所の鉄筋結束をするが、ドバイは」と聞いたところ、日本の5分の1だった。日本では作業効率がドバイの5倍ということが分かり、これまでの実績から世界で戦えると確信。1月に米ラスベガスの展示会に出展しました。
ロボットをちゃんと建設現場で活用する、そのプロセス全てを事業基盤にしたい。60年ぐらい変わらない建設業界で、ロボットをいきなり入れても、放置されるだけです。職人を説得し、使ってもらい、「もう一回使いたい」となるまで説明を繰り返します。
課題は屋外型ロボットの規制がない点です。今は掃除ロボットと同等の速度に設定していますが、本当はもっと動作を速くしたい。ようやく国際電気標準会議(IEC)が動きだしましたが、顧客が利益を出せるような設計にしないと継続的に使ってもらえないのです。
早く安く設備構築
岡田
大手運送会社の配送センターは、大きなモーターを使い、ものすごいスピードで仕分けられる「重厚長大」な装置を使っています。ただ、そうした装置は、建屋の設計段階からコンベヤーの設計も一緒に考えて作らなければなりません。建設費や運用コストが高く、計画から完成まで4-5年はかかるのが普通で、完成した時には、もう不要になっているかもしれません。我々の製品は「軽薄短小」で、必要以上に速い仕分けはできなくても、運用に最適な仕分けができます。加えてコストが安い、立ち上げが早い、レイアウト変更や移設が容易などのメリットがあります。
いま新しく建設される配送センターはマルチテナントの貸倉庫が主流です。賃貸ですので、早く立ち上げて、移設やレイアウト変更ができないといけない。我々の製品はモジュール単位になっており、組み合わせることでさまざまな形に変えることができます。この強みを生かし、そうした市場で使っていただくのが今後の戦略です。
開発秘話がヒントに
奥野
きょう、皆さんが話されたことすべてが当社のヒントになります。というのも、モノづくりにかかわる会社すべてに関係するモノの表面を処理する薬品を作る会社だからです。例えば先ほどのロボットの話ですが、省電力化や高速化のためにはどうすれば良いか。モノの表面の摩擦を低減する、より滑りやすくするための技術が表面処理にはあります。
皆さんのこうしなければならない、こうしていきたいという課題解決を裏で支えられる薬品を開発することが当社の使命です。表面処理業者をお手伝いすることを通じて、その先の最終ユーザーの期待に応えられるよう開発を続ける考えです。
自動フォーク照準
ガジャン
ロボットで黒字化するためには、事業規模の拡大が重要です。現状は約200台売れていて、約100台が実稼働しています。今年は大阪にも営業拠点を構え、販売台数1000台を目標に頑張っています。不特定多数の人を相手にするホテルなどとは異なり、物流倉庫の良いところは関係者しか入らないという点です。ロボットに対する振る舞いを関係者だけに教育すれば良いため、しばらくは物流分野に注力し、今後、自動フォークリフトなども出したいと考えています。
もちろん、継続的にご支援いただいている方々、例えばハードウエアを作る長野県のメーカー、補助金を出している新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や東京都、投資いただいているSBI証券やサイバーダイン、ゴールドマンサックスなどには非常に感謝しています。
井水
それでは最後の質問です。今後の経営方針や人づくりに対する考え方などを聞かせてください。社会に信用される組織
眞部
事業を拡大し、投資家の期待に応えていくために昨年、上場させた経験を持つ方にCFO(最高財務責任者)として入社いただいた。今後は売り上げを拡大し、社会的に信用される仕組みをつくっていこうと考えています。あとは現場で鉄筋屋さんを一生懸命説得して、私たちの考え方を建設業全体に伝えていく伝道師のような営業組織をつくりたい。
最終的には従量課金制でやりたいと考えている。「きょうは鉄筋を何回結束したからいくら」という具合です。台数が増えてくれば、そちらの方がお客さんにもわかりやすい。あるべき姿は従量課金だと思っています。
井水
確かに課金で成功しているビジネスモデルはうまくいっていますね。知識・技術の幅広げる
岡田
世の中にない新しいものを作ろうという思いがあり、その上で大事なのは人づくりと考えています。技術者は一つの分野を5年、10年やれば、その範囲でプロになります。ただ世の中にないものを開発するには、それ以外の知識や技量が多く必要です。それを身につけるため、当社はスーパープロトレーニング(SPT)と呼ぶ活動を行っています。20数年前から兵庫県の生野銀山近くで古い別荘を数軒取得し、社員が土曜日に改装しています。本業とは違う仕事をすることによって、知識や技能の幅が広がります。またパワーショベルなどの重機を13台所有しており、別荘地とは違う場所で200ヘクタールの山を取得し、里山の整備活動も行っています。
昔は木を伐採することで山が整備されていましたが、炊事や風呂に木を使わなくなり、倒木が谷筋に集まって土石流が発生する自然災害が頻発しています。害獣被害も深刻です。そうした社会課題を解決し、現地で作業する中で生まれるアイデアや発想が製品の開発にも役立つのではないかと考えています。
井水
社会貢献と製品開発を結び付ける素晴らしい発想ですね。社員発想の開発促す
奥野
2013年に米国へ拠点を出すため、私1人で渡米しました。営業も総務も物流も研究もやりましたが、1人では厳しい。当社は約450人の社員がいますが、「ほんとうに愛される製品をつくり みんなに愛される人になれ」という社是が一番大事だと感じています。当社はBツーBビジネスの会社ですが、その先を見てBtoCで売るとなると何が必要なのか。これを考えるため「BツーC開発プログラム」「商品開発プログラム」と銘打ち、社員に投げかけています。
従来は市場が求め、これが当たるだろうという発想に基づき、会社から「これを開発しろ」とテーマを与えていました。しかし今回は自分が最終消費者になった場合、当社のコア技術で何ができるか、社員が発想して提案し、物事を先に進めていこうと取り組んでいます。
井水
人材育成は一番大事なことですね。責任がヤル気の源に
ガジャン
人はロボットより100倍複雑です。起業した時、どうやって経営するのかを必死に研究しました。試行錯誤を繰り返してわかったことは、責任を与えられることが一番のモチベーションにつながるということです。社員は100人を超えているので、チームの人数は1ケタ以内にし、すべてのチームをフラットな構成にしています。「私はこういうことをやりたいが、あなたは何がやりたいか。それに合う投資をして、どうやるかはあなたが決めてください」という感じで組織を運営しています。
自分で責任をとり、判断することで、高いモチベーションが生まれます。教育に関しても、何がベストかは社員が一番知っており、「海外の学会に行きたかったら行ってください」と、自分の道は自分で選ぶように設計すると、いろいろ動いてくれます。
(2022/5/23 05:00)