(2022/3/28 00:00)
富士電機はカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を目指す顧客に対して「専用再生可能エネルギー発電所」を提案する。世界はこれまでの低炭素から脱炭素へかじを切り、日本政府も2030年度の温室効果ガス46%削減(13年度比)、そして50年の炭素中立を宣言した。同社を含む多くの製造業も環境目標を見直し、50年に向けてサプライチェーン全体での炭素中立を目指す。ただ、その大きな目標達成には従来と異なるアプローチが必要だ。
富士電機が打ち出す専用再エネ発電所は、顧客が自ら保有・運営する大規模太陽光発電所(メガソーラー)などに由来する電力を工場やビルで使う、再エネ限定の自家発電がコンセプトだ。パワエレ営業本部エネルギーソリューション統括部事業推進部営業第二課主席 笛木豊氏は「工場の敷地内に太陽光パネルを敷き詰めるだけではカーボンニュートラル達成には足りない。自分たちの再エネ発電所を遠くに保有して、『遠隔自家消費』する手法が流行りだした」と最近のトレンドを説明する。
また、近年さらに関心の集まるESG(環境・社会・企業統治)投資の観点からもエネルギー多消費産業への要求は高まる一方だ。「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の再エネを買ってくるだけでは不十分で、企業が自ら投資して再エネ発電所をつくり自家消費することがステークホルダーからの評価ポイントになりつつある」と笛木氏は産業界の変化を感じ取る。
エネルギー関連商材を幅広く手がける同社にとって、その変化は大きなビジネスチャンスになりうる。具体的にはオフサイト設置の再エネ発電所から工場への供給までの設備・システムを一気通貫で提供するほか、電力需給の差分であるインバランスの最小化や実施体制の提案、電力会社との調整も支援する。
同社は太陽光以外の再エネ発電にも強い。発電プラント事業本部営業統括部海外営業部長 井岡高史氏は「太陽が照らない場所もあるので、風が強い場所なら風力発電が有効で、最適な再エネによる地産地消を目指して各自治体が検討に入っている」とカーボンニュートラルへ知恵を絞る。
日本は世界3位の地熱ポテンシャルを有する地熱大国だ。同社は2000年以降の納入実績で世界シェア約40%とトップランナーだ。全世界で累計86ユニット、3647メガワットと豊富な実績を誇る。「地熱発電は従来資源開発が難しかったが、政府がカーボンニュートラルに向けて規制緩和に動きだした。水力発電も老朽化した設備を更新することで、出力を数%拡大できる」と井岡氏はその土地に合う最適な再エネ導入による可能性の拡がりを語る。
多くの納入実績と経験を生かした、大きな提案力
次世代エネルギーの水素も炭素中立のカギを握る存在だ。技術開発本部技術戦略室イノベーション推進部長 大熊康浩氏は「水素のサプライチェーンがどうなるか、世の中に水素が何時、どのように実装されていくのかの見極めが重要と考えている。我々も水素バリューチェーン推進協議会等の団体に加入して情報を集めつつ、世の中の動きを見ながら研究開発の対応をしているところだ」と視線を巡らせる。
すでに実際のビジネスとして、水素燃料電池及び水素製造電解装置用電源装置を展開している。水素製造には直流電源が必要であり、電源装置には高調波抑制対策や制御応答性、そしてコストと多くの要求がある。同社は産業用大容量直流電源で積み重ねた納入実績と経験を生かし、顧客が要望する出力仕様・容量に合った最適システムの提案力が大きな強みとなる。
ただ、水素の社会実装に向けた課題は山積みだ。発電プラント事業本部主幹 白川正広氏は「今後ダイナミックにインフラが構築されないと、水素エネルギーは普及しないだろう。現在はいろいろなメーカーが実証レベルの開発を行っている段階。だからまだ先は読めないものの、電源などのパワエレの強みを生かしつつプラント分野でもカーボンニュートラルに貢献できる機会は必ず出てくるはずだ」と来る水素社会への準備を着実に進める。
脱炭素化の新潮流は火力発電関連事業も手がけてきた同社にとって逆風にもなりえた。ただ、笛木氏は「当社の事業環境を考えると、リスクよりも機会の方が多いとの結論に至った。我々の持っている商材をその機会にうまく乗せて提供していこうという社内の機運が高まっている」と全社一丸となってカーボンニュートラル社会の実現に貢献する考えだ。
(2022/3/28 00:00)