[ オピニオン ]
(2015/11/26 05:00)
国立大学86校が2016年度から取り組む「第3期国立大学中期目標・中期計画」素案が公表された。すべての大学が何らかの組織見直しを挙げており、改革の意欲は感じられる。しかし個々の特色強化は抽象的な表現もみられる。財政支援の理解を社会から得るためにも、具体的な計画を急ぎ肉付けして発信してほしい。
この素案は、各大学が6月に文部科学省に提出した計画をまとめたもの。文科省が同じ時期に問題提起した人文社会科学系の再編・見直しについては33大学が計画に盛り込んでいる。これは「人文社会系の教育研究は浮世離れしたものでなく、社会で活躍する人材育成につながるべきだ」という意識を、多くの大学が早い段階から持っていたことを意味する。
一方、理工系の取り組みをみると、東北大学はスピントロニクスやデータ科学などで、海外有力大学と連携した七つの国際共同大学院プログラムの実施を挙げた。豊橋技術科学大学は、社会実装と社会提言につながる研究の両面で、それぞれ3件以上の成果を目標に掲げた。九州大学は二酸化炭素を増やさないカーボンニュートラル、エネルギー関連という強みに力を入れ、米国イリノイ大学などとの連携を計画している。
もっとも素案の中で、改革意識を明確に示す数値指標は限定的だ。目立つのは留学の派遣・受け入れや女性教員の数字で、8割近くの大学が挙げた。ただ、この切り口は横並びでしかなく、各大学の特色強化に結びつけるのは難しかろう。各大学は個性を明確にした取り組み策を具体化し、広く理解を得る努力をしてほしい。
財務省の財政制度等審議会は16年度予算の編成方針で、大学等の運営費交付金の年1%削減を継続する一方、自己収入の年1・6%増を求めた。共同研究費や寄付金の増加を目標とするのは結構だが、現実にはこれほど高い伸び率で大学が資金を集めるのは難題だ。行き詰まった大学が学費値上げに動くようでは公益にも反しかねない。各大学は国の交付金削減をはね返す意味でも、個性の発揮に努めるべきだ。
(2015/11/26 05:00)