[ オピニオン ]
(2016/3/9 05:00)
家庭向けの電力小売り事業が自由化される4月1日まで、1カ月足らずとなった。相次ぐ参入表明に消費者の関心が高まる半面、新しい事業者が顧客獲得を急ぐあまり無理な営業をして、結果的に顧客の期待を裏切ることはないかと警戒する声もある。需要家保護に万全を期す必要がある。
需要家保護のあり方を巡る議論に一石を投じたのが、新電力大手の日本ロジテック協同組合による「小売電気事業者」の登録申請取り下げだ。同協組はこの間、すでに自由化されている公共施設向けや法人向けの電力販売事業を手がけてきた。だが厳しい競争で利幅を思うように確保できず、資金繰りが悪化したとされる。経済産業省に登録を受理されないと4月から電力を売れなくなり、このまま撤退する公算が大きい。
このようなケースでは地元の大手電力会社が代わって供給責任を負うため、電気が止まることはない。だが従来より電気代が増える可能性があるほか、消費者が新規参入事業者との契約に消極的になり、電力小売り全面自由化の実効性が薄れる懸念がある。
経産省が1月に定めた「電力の小売営業に関する指針」では需要家保護のため、電気料金の分かりやすい説明や算定根拠、電気の供給条件などの明示を小売電気事業者に求めている。しかし財務内容の開示までは要求していない。また同省は事業者の登録申請時に、直近の事業年度の貸借対照表と損益計算書を提出させて審査する。ただ登録が済んで事業を始めた後に財務状況が悪化した場合、消費者は実情を把握しにくい。
需要家保護で重要なのは、物品・サービスの知識や事業の信頼性にかかわる情報で、需要側と供給側の格差をどう埋めるかだ。これを踏まえて事業者には契約時、さらにはそれ以降も顧客に、経営状態や財務状況を積極的に開示するよう促すべきではないか。生活に欠かせない電力の供給先選びで、大きな判断材料になるはずだ。
消費者もこうした情報にできるだけ関心を持ち、安心して電力供給を任せられる事業者を見抜く選択眼を養うべきだろう。
(2016/3/9 05:00)