[ オピニオン ]
(2016/3/22 05:00)
東芝が家電事業を、中国の同業大手、美的集団(広東省)に売却することで基本合意した。シャープが台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の子会社になるのに続く新興国企業への身売りは、日本の産業界全体にとって衝撃だ。国民に信頼された「国産家電」は縮小するが、業界各社はこれと引き換えに、世界で通じる高収益企業を目指さなければならない。
東芝は日本の家電の歴史の中でトップランナーだった。シャープは特徴的な製品と競争力のある価格でファンを引きつけた。両者のブランドと販売網は今後も残る。従来も家電製品をアジア諸国や中国で製造したり、低価格製品の一部を新興国企業から相手先ブランド生産(OEM)で調達したりすることは普通だった。最大手のパナソニックはじめ他社の国産家電も健在で、消費者からみた変化は小さいだろう。
家事や生活を助ける白物家電は確かに日本の高度経済成長を支えたが、1980年代にはすでに収益貢献の主役を音響・映像(AV)機器に譲っていた。米国では家電は海外ブランドが一般的。東芝にとって歴史的な“師匠”格でもある米ゼネラル・エレクトリック(GE)も、家電部門の中国・ハイアールへの売却を進めている。東芝やシャープの場合は経営危機が引き金になったが、家電事業が低収益なら、それを切り離す決断は他社でもあり得る。
ただ消費者に密着した家電は、エレクトロニクス各社の広告塔の役割を果たし、同時に「国産」に対する信用・信頼をつなぎとめていた。新興国企業が、その一角を握った意味は大きい。縮小する国産家電は同時に、消費者の海外製品に対する否定的印象を打ち消し、新興国ブランドそのものの台頭を許すだろう。
日本のエレクトロニクス産業が再び世界のリーダーに返り咲くためには、より高収益の事業へのシフトを急ぐ必要がある。GEもドイツのシーメンスも同様な悩みに直面しつつ成果をあげてきた。「国産家電」を残すかどうかが問題なのではない。どの分野で勝つかが問われている。
(2016/3/22 05:00)