[ オピニオン ]
(2016/3/24 05:00)
三菱重工業とIHIが、相次いでブラジルの造船・海洋合弁事業から撤退する。2014年8月に安倍晋三首相が訪伯し、海洋資源開発促進のための造船協力に関する共同声明を発表して1年半。経済協力だけでなく人的交流を通じた友好関係強化も期待されていただけに、民間の合弁解消は痛手だ。政府は粘り強く同国との関係維持を働きかけるべきだ。
ブラジルでは経済の低迷や石油価格の長期下落、それに大規模汚職事件が加わり、国営石油会社ペトロブラスの投資計画が大幅に削減された。「出資の目的であったブラジルでの海洋資源開発関連事業の回復が当分、望めない状況」(IHI幹部)だ。
日伯の造船分野の協力は、IHIがリオデジャネイロにイシブラス造船所を設立した1950年代にさかのぼる。しかし80年代のハイパーインフレなどを機に関係が薄れ、韓国勢に後れをとった。
再び巡ってきたチャンスが、世界的な石油・天然ガス需要拡大を背景に浮上した資源開発だ。三菱重工やIHI、川崎重工業などは、ブラジル沖合の大水深海洋構造物に参画することで技術を蓄積しようとした。相次いで合弁を立ち上げたものの、2014年秋からドリルシップ(掘削船)などの代金入金がストップ。事業継続が難しい状況に追い込まれた。
国土交通省関係者は、日伯の造船協力は「民間支援が主」と話しており、政府間交渉で解決を図るのは難しいとの立場。業界全体でも、日本造船工業会会長で川崎重工社長の村山滋氏は「これ以上の資金投入はまったくない。技術支援を求められればそれに応じて契約するが、代金を受け取らないとできない」と断じる。
造船・海洋事業の協力はブラジルの産業育成に貢献し、わが国にとっても目に見える形でメリットが生じるはずだった。民間2社の撤退により、ブラジル造船業界との関係維持も困難になる。
かつてインフレ経済を克服した同国が、リオ五輪などを機に現在の混迷を脱することを期待する。その糸口を見つけられないか、日本政府も考えてほしい。
(2016/3/24 05:00)
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