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深層断面/日産、電池会社売却へ−NECとのEV車載用

(2016/8/9 05:00)

日産自動車が電気自動車(EV)向けの電池を生産するNECとの共同出資会社オートモーティブエナジーサプライ(AESC、神奈川県座間市)の株式売却を検討している。EVの基幹部品となるリチウムイオン電池の調達を外部に切り替えることでコスト低減を進めるのが狙いとみられる。NECと歩み始めた車載用電池事業は転換点にさしかかっている。(編集委員・池田勝敏、同・斎藤実)

  • 日産、NECなどはリチウムイオン電池の事業化で08年に会見

  • 航続距離を伸ばした日産のEV「リーフ」

自前主義から脱却/新興メーカー猛追、大勢立て直し

【外部調達】

日産はリチウムイオン電池の自前主義からの脱却を着々と進めてきた。EV「リーフ」は2015年末、日欧米で航続距離を伸ばした仕様を追加した。このリーフに搭載する電池は、座間市のAESCと日産の米国工場で生産している。前者で生産する電池の正極材は従来と同じNECエナジーデバイス製を採用しているが、後者の正極材は韓国LG化学製に切り替えた。

さらに、今秋にも発売する主力小型車「ノート」のレンジエクステンダー(航続距離延長)方式のEV仕様の電池は、パナソニック製を採用することが決まっている。これまでEVの駆動用電池は内製かAESC製に限ってきたが初めて外部調達することにした。

日産はエコカー戦略の主軸にEVを置き、その基幹部品となるリチウムイオン電池の開発・生産をNECと組んで自前で始めた。当時は車載用リチウムイオン電池を生産するメーカーが少なかった。ラミネート形状の独自の電池構造はノウハウが必要だったこともあり、リチウムイオン電池をコア技術と位置付けていた。だが電池事業を取り巻く環境が変わり、「外部との競争の中で最適なものを採用する」(カルロス・ゴーン社長)と方針転換した。

【販売足踏み】

環境変化の一つは新興電池メーカーの台頭だ。韓国の電池メーカー、LG化学は米ビッグスリーのほか、ダイムラーやアウディなど欧州メーカーへの搭載が決まっており取引先完成車メーカーは10社を超えている。取引拡大が量産効果を生んで電池の低コスト化につながり、さらに取引を拡大するという好循環になったようだ。一方の日産はEVが当初計画より販売が伸びず、量産効果を思うように生み出せなかった。

資本提携先の仏ルノーも日産と一緒にEV拡大を進めているが、AESC製を採用した車種は限られる。むしろルノーはLG化学と15年に共同開発を結んでおり、AESCとは距離を置いていた。AESCは日産以外に納入先を広げられず、採算が悪化していた。

  • 左からリチウムイオン電池のセル、モジュール、スタック(2種類)

  • 日産のゴーン社長はEV競争激化の中で体勢を立て直す(5月12日の決算会見)

【低コスト】

新興EVメーカーの攻勢も激しい。米テスラモーターズは同社初の普及価格帯となる「モデル3」を17年から生産する計画だ。世界最量販EVのリーフは発売から5年後の15年にやっとのことで累計販売が20万台になったところだが、モデル3の受注台数は発表後1週間で30万台を超えた。中国のエコカー市場でシェアトップのBYDは電池を内製して低コストを武器に攻勢をかけている。

日産はこうした環境変化を受け苦戦を強いられ、電池の自前主義の脱却を進めてきた。EVやプラグインハイブリッド車(PHV)といったリチウムイオン電池を多用するエコカーは、各国の環境規制の厳格化に伴って市場は拡大傾向にある。「EVのリーダー」(ゴーン社長)を自負してきた日産は、新興メーカーの猛追を受ける中で、AESCを手放すことで自前主義の脱却をさらに一段推し進め、激化するEV競争で体勢を立て直したい考えだ。

■NEC、軌道修正必至−経営戦略上の痛手大きく/電池事業、八方ふさがり

【存在意義】

日産がAESCの株式を売却すれば、NECのスマートエネルギー事業は大きく軌道修正を迫られそうだ。AESCの株式に占めるNECの持ち株比率は49%。経営権は同51%の日産が持っており、日産が売却先をどこに決めるかによって、NEC側の対応は左右される。

NECはリチウムイオン電池の心臓部となる正極材をNECエナジーデバイスで生産し、日産のEV「リーフ」向けに製品供給している。AESCは電池をラミネート型に収めるための組立工場であり、日産が手を引けば存在意義が変わる。

仮にAESCの買い手が電池メーカーであれば、正極材など部材の供給先をすべて自社ルートに切り替える公算が大きい。NECとしては現行のリーフ向け供給契約が残ったとしても、ビジネスとしてはそこまで。AESCの買い手が「完全子会社にしたい」と申し出ればNECも応じざるを得ない状況だ。日産がAESC株を売却するタイミングで、NECも株式を手放すのが順当といえよう。

NECにとってAESCは非連結子会社であり、当期利益以外には業績への影響はない。だが、経営戦略上の痛手は大きい。AESCから手を引くと、自動車向け電池供給事業はなくなり、振り出しに戻ってしまうからだ。日産以外への供給ルートが開ける可能性もあるが、五里霧中。電池事業の競争は厳しく、八方ふさがりといった状況だ。

【縮小モード】

NECは自動車以外に家庭用や業務用にリチウムイオン蓄電システムを生産・販売している。当初の戦略は心臓部の正極材について、日産リーフ向けで量産効果を生み出し、家庭用や業務用でもコスト競争力を高めることにあった。

しかし、リーフ向けは思うような数量がでず、しかも家庭用小型蓄電システムも苦戦を強いられている。業務用の中・大容量システムは多くの実証実験を手がけるが、実需はまだ少ない。

NECは4月にスマートエネルギー事業をビジネスユニット(BU)から事業部に格下げした。電池事業を縮小する日産の動きを先取りしていたかのようにも見える。スマートエネルギー事業の中核である電池事業は縮小モードとなりそうだ。

(2016/8/9 05:00)

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