[ エレクトロニクス ]

リオ五輪・舞台裏の競争−キヤノン・ニコンのカメラ対決に富士フイルム参戦

(2016/8/16 05:00)

  • 富士フイルムが開発した「X―T2」

  • 家電量販店では、4Kテレビの販売が好調に推移している

アスリートが最高の技を競うオリンピックでは、映像や画像にも最高の技術が求められる。ブラジル・リオデジャネイロ五輪の開幕を受け、テレビ市場ではフルハイビジョンの4倍の解像度を持つ「4K」に対応した製品の販売が好調になってきた。一方、プロ用カメラ市場では従来のキヤノンとニコンによる一眼レフカメラの対決に、新顔のミラーレスが割り込もうとしている。4年後の東京五輪・パラリンピックへのカウントダウンが始まり、テレビ・カメラ各社による“メダル争い”も活発化してきた。(梶原洵子、政年佐貴恵)

【カメラ−富士フイルム、ミラーレスで挑む】

陸上競技場などのカメラマン席を見ると、白や黒のレンズを装着したカメラを持つ人がずらりと並ぶ。白がキヤノン製、黒がニコン製であり、どちらのカメラとレンズがプロに支持されているか一目瞭然だ。関係者の間では“白黒対決”とも呼ばれる。「一般消費者への販売で一定の規模を取るにはプロに使ってもらい、ブランド力を高めることが大事になる」(キヤノン広報担当者)という。

こうした中、2社のオリンピック対決に、新たに富士フイルムがミラーレスカメラの旗艦モデル「X―T2」で参入を狙う。9月発売のためリオ五輪には間に合わず、発売前に試用した数人のカメラマンが現地に持ち込むだけだが「東京五輪では多く(のカメラマンに)利用されるように取り組む」(高橋通取締役常務執行役員)と意気込む。現在、五輪の写真用カメラとしてキヤノンとニコンが主に使われるのは、両社がデジタル一眼レフカメラで高いシェアを持つためだ。一眼レフに対し、ミラーレスカメラはシャッターを切る時にファインダーから像が消えるブラックアウトが生じるため、スポーツなど速く動く被写体の撮影に弱く、スポーツの撮影に向かなかった。だが富士フイルムはX―T2で、ブラックアウト時間を1秒当たり0・4秒(毎秒3回連続撮影時)に短縮し弱点を補強。軽量さを訴求し、一眼レフに対抗する。

一方、キヤノンとニコンはリオ五輪に多くのカメラやレンズ、そしてスタッフを送り込み、プロカメラマンへ万全のサポート体制を整え牙城を死守する。

特にキヤノンはスタッフ70―80人が現地に入り、カメラを800―900台、レンズを1300―1600本持ち込んだ。最高峰の「EOS―1D XマークII」をはじめ、「同5D」シリーズ、高速連写に適した「同7D」シリーズを紹介し、カメラマンに導入を喚起する。ニコンは153点のフォーカスポイントにより、動く被写体をとらえやすくした「D5」を3月に発売。オリンピックでも訴求している。

リオ五輪ではアスリートが活躍する瞬間をとらえるため、最高峰の画像技術が集まっている。今後は東京五輪に向けて競争が激化することは間違いなく、さらなる進化が期待される。

【テレビ-4K機種、6月販売数は前年比2倍】

リオ五輪は日本国内のテレビ市場にも恩恵を与えている。調査会社のBCNによれば6月のテレビ販売金額は前年同月比3・9%増となり、単月ベースでは過去3年で最高水準を記録した。五輪の番組放送に向けて買い替え需要が回復し、4Kテレビの販売が好調だったためだ。テレビメーカー各社は4Kテレビなど高付加価値製品と相性の良いスポーツを市場復活のきっかけにしたい考えだ。

「スポーツイベントは最も盛り上がる。貪欲にシェアを追求したい」―。ソニーの高木一郎執行役EVP(エグゼクティブ・バイス・プレジデント)は、スポーツとテレビの相性をこう表現する。動きの激しいスポーツは、細部の映像表現が臨場感を高める要素となる。このため高画質を得意とする日本メーカーの強みを打ち出しやすい。

最大のけん引役が、4Kテレビだ。BCNによれば4Kテレビの6月の販売台数比率は、2015年6月の約2倍となる22・8%まで上昇した。販売台数は倍増ペースで伸びており「4K効果による販売増を五輪需要が後押ししている」(道越一郎BCNチーフエグゼクティブアナリスト)と説明する。16年からは、輝度を拡張してコントラストを高めるハイダイナミックレンジ(HDR)に対応した製品も登場。ソニーやパナソニック、東芝などが相次ぎ市場に投入している。

また画質の改良に加え、没入感を高めるのに欠かせない音響面の強化も顕著だ。ソニーは画面の両サイドにスピーカーを配置し、振動板にカーボンファイバーを採用した製品を発売。パナソニックはCDよりも高音質なハイレゾ対応の製品に加え、画面とスピーカー部分を離し、画面が浮いたような形状の新製品を月内に投入する。

テレビ各社は16年をテレビの買い替え需要が本格回復する年に位置付ける。通常、世界的なスポーツイベントが開催される年は需要が大幅に拡大する。リオ五輪でも同様の傾向が顕在化しており、年末商戦ではさらなる販売増を見込んでいる。

20年には東京五輪が開催されて、4Kより高解像度の8K放送が始まる。各社も8Kテレビに軸足を移しつつあり、大きな期待を寄せる。ソニーの高木EVPは「20年までに8K製品を市場投入する」と表明。パナソニックは8K映像の伝送ケーブルを開発して、リオ五輪のパブリックビューイングを8K映像で行うなど、布石を打つ。各社は高付加価値製品の販売戦略を推進して、五輪開催に伴う需要を取り込む構えだ。

(2016/8/16 05:00)

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