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深層断面/シャープ再生劇幕開け−国内拠点の再編加速、下期で負の遺産一掃

(2016/11/2 05:00)

シャープの戴正呉社長は1日、東京都内で会見し、「(国内拠点を)必ずしも閉鎖するわけではないが規模の縮小を検討する」と、旧経営陣が先送りしてきた工場や営業拠点の再編を進める考えを示した。台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入り約2カ月半。コスト削減で効率化する分野と、投資して事業拡大を進める分野がはっきり分かれてきた。旧経営陣が踏み込めなかった拠点再編や縮小を決断できれば、長く失われていたシャープ再生の道筋が見えてくる。(大阪・錦織承平、同・川合良典)

  • 会見する戴正呉シャープ社長

  • シャープの新本社ビル(堺市堺区)。グローバルブランド復活を果たせるか

戴社長は、すでに発光ダイオードを生産する三原工場(広島県三原市)を17年にも閉鎖し、福山工場(同福山市)に集約する案を検討している。広島事業所(同東広島市)の携帯電話工場も規模を縮小する可能性がある。

すでに知的財産管理や物流部門を分社化したほか、各事業部門も鴻海グループの事業体制に合わせて20のビジネスユニットに細分化して組織を組み直しており、鴻海が各事業の収益を細かく管理する体制を構築している。

これらの動きについて取引行幹部は「シャープが鴻海の一部として取り込まれる過程」と説明し、「16年度下期で負の部分を一掃するだろう」と構造改革の加速を予測する。

一方でディスプレーパネルは赤字が続くが依然として成長事業の位置づけ。中国や国内の関連部門が肥大化している点を改善し、顧客の選別を進めれば「黒字化する自信がある」(戴社長)と言い切る。有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)パネル生産ラインに計574億円を投資して、米アップル向けで先行する韓国勢やジャパンディスプレイを猛追する構えだ。

さらに国内市場の低迷や海外勢との競争に敗れて戦線を縮小していたテレビ事業も再拡大する方針。18年度の販売目標は16年度見込みから倍増の1000万台。鴻海の調達網を生かした製品開発を進め、東南アジアでブラウン管テレビの置き換え需要を狙う。欧州の事業譲渡先であるスロバキアUMCとは資本提携も視野にブランドライセンスを取り戻す交渉を始めた。シャープブランドを手中に取り戻し「輝けるグローバルブランド」として復活させたい考えだ。

  • 買い戻した田辺ビル(左)とニトリに売却した旧本社ビル(右)

■戴社長 一問一答−ブランド取り戻すのが私の使命

―有機ELパネル量産の見通しについて。

「シャープは世界で一番高い技術力を持つディスプレーメーカー。液晶同様、有機ELも挑戦する。10月、試作ラインに約570億円の投資を決めた。まず4・5世代の試作ラインを成功させる」

―今後の拠点再編の可能性は。

「国内工場だけでなく、営業所の再編もあり得る。研究開発拠点はまだ検討していない。構造改革は最もメリットが出るようにしたい。三原工場の機能を福山工場に移管すると経費が多くかかるが、福山に集中すれば効率を向上できる。結論はまだ出ておらず、どちらが良いのかもう少し考えたい」

―人員削減は。

「人員削減の話は8月の就任以来一度もしたことがない。まず社員の適材適所の配置転換が大事。ただ、シャープは平均年齢が高く、若手が少ないのでバランスが悪い。退職者や、外部からの人材を募る。新卒も多く募集したい」

―海外のブランドライセンス供与の見直しについて。

「シャープはこれからグローバル企業になる。早期に、必ず世界中のブランドを取り戻す。私の挑戦であり、使命の一つだ」

―鴻海グループの中でのシャープの位置づけと担う役割は。

「シャープの独立性と透明性を保つ。18年には東証1部に戻りたい。私は鴻海精密工業の取締役を辞める申請をしている。鴻海グループの副総裁を辞任するかどうかはもう少し考える。鴻海にとってシャープへの出資はあくまで戦略投資だ」

■戴社長の実像−経営に「繊細さ」と「大胆さ」

「繊細にして、大胆」―。取引銀行幹部の戴社長に対する人物評だ。鴻海グループ副総裁でもある戴社長の経営管理面の細かさや厳しさは、誰もが認めるところだ。シャープ幹部も「戴社長がいるときの緊張感は生半可なものじゃない」と明かす。繊細さは社員に向けられる人心掌握術にも表れている。

鴻海による買収の完了と前後して、経営企画本部の福井博之執行役員、太陽電池や複写機事業を率いた向井和司常務執行役員、家電事業の小谷健一執行役員ら「男(おとこ)気がある」と社内で慕われた幹部が次々と会社を去った。人材流出は鴻海の買収が決まる以前から続く深刻な問題。日本電産、クボタなど関西企業の受け皿もあり、歯止めがきかない状況だ。

戴社長はこの状況に機敏に反応。人望は厚かったがすでに電子部品メーカーに転職していた中山藤一専務に復職を呼びかけ、複写機事業のトップに復帰させる配慮をみせた。

また、シャープは14年以降、2回に渡って中期経営計画が破綻。旧経営陣の発言に重みがなくなり、社内外で企業としての信用を失いつつあった。戴社長はその空気を感じ取り、創業の地に建つ旧本社地区ビルの買い戻しを有言実行。その上で、18年度テレビ販売1000万台という高い目標を示し、「必ず成し遂げよう」と呼びかけ、自らのリーダーシップを明快に示した。

【社員寮に入居】

一方、「繊細さ」とともに兼ね備えるという「大胆さ」は、その行動力に表れている。戴社長は大阪市内の社員寮に入居し、社員と一つ屋根の下で生活を始めた。役員報酬も受け取らず、早朝に出社して経営危機に立ち向かう姿をみせた。

戴社長の大胆さがさらに発揮されそうなのは、今後に本格化するリストラ局面だ。社員向けメッセージでも「資産の有効活用や過剰設備の撤廃などさまざまな観点から費用対効果を追求する」と明言している。16年度下期以降の黒字化の足かせになる拠点や事業は思い切って改革するとみられる。人員については「削減でなく適正化する」と発言を抑え気味だが、管理職手当の廃止やインセンティブ制度の検討も始まり「信賞必罰」の徹底を着々と進めている。

戴社長による鴻海流シャープ再生劇の幕は上がった。自ら掲げた「ワン・シャープ」の言葉通り、全社をまとめ上げ、復活を果たせるか。戴社長の手腕が社内外から注目される。

(2016/11/2 05:00)

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