[ オピニオン ]
(2016/12/14 05:00)
対馬は上島と下島に分かれる。両島の間の浅茅(あそう)湾は、リアス式海岸の天然の良港だ。ここはまた、はるか北にあるロシアと日本の近代史に何度か関わった場所でもある。
ひとつは「ポサドニック号事件」。ペリー提督の黒船来航の8年後、不凍港を求めたロシア軍艦が湾内の芋﨑に無断で上陸。工場や兵舎を建設し、対馬藩に土地の租借を要求した。対応に苦しんだ幕府は英国の介入を仰ぎ、なんとか退去させた。
もうひとつは日本海海戦だ。東郷提督の連合艦隊の主力は鎮海湾(韓国)で、水雷部隊は浅茅湾の竹敷で訓練を積んでバルチック艦隊を待った。竹敷はその後しばらく海軍の重要拠点となり、現在も海上自衛隊が小部隊を置く。
日ロ関係史の中で、ロシアは威圧的、好戦的に思われがち。東西冷戦時代の“仮想敵”だったせいだろうが、それ以前のイメージも決して良いとは言えない。あす来日するプーチン大統領と安倍晋三首相の会談で、新たな両国関係をスタートできるだろうか。
3年ほど前、浅茅湾を船で案内して頂く機会があった。芋﨑も竹敷も、昔日の緊張を少しも感じさせない静かな海に、養殖のイカダが連なっていた。ロシアは一衣帯水の隣国の一つ。友好が何よりだ。
(2016/12/14 05:00)